マグネシウムとは?実用金属中もっとも軽くホイールに多く採用【バイク用語辞典:材料編】

■軽いが高コストなので軽量化を重視する使い方に限定

●最高峰レースMotoGPでも活躍する軽量かつ高強度のマグネシウムホイール

マグネシウムの比重は1.8で、実用金属中もっとも軽く大きな軽量効果が期待できます。コストが高いためアルミほど普及していませんが、コストよりも軽量化を重視するレース車や高性能車ではホイールなどに使用されます。

軽量で高い強度で存在感を示すマグネシウムについて、解説していきます。

●マグネシウムの特徴

マグネシウムの比重は1.8(鉄の比重7.8、アルミの比重2.7)で、実用金属中もっとも軽い金属です。質量当たりの強度や剛性が高く、肉厚が薄くても強度を確保でき、曲げ剛性にも優れているので、軽量化部材として適しています。

軽量化素材の強度とコスト
軽量化素材の強度とコスト

また切削抵抗が小さく耐窪み性(窪みにくい)に優れ、他の金属との接合やリサイクルがしやすいというメリットもあります。実際に使用する場合は、強度や耐熱性を強化するためにアルミと亜鉛を添加したマグネシウム合金として使います。

メリットが大きい反面、欠点が多いのもマグネシウムの特徴です。燃えやすい、耐食性が低い、加工性がアルミよりも劣るなど素材として扱いにくい、コストが高いといった点が、アルミに対して普及を阻んでいる要因です。ただこれらの課題については、添加技術などによって、改善されつつあります。

●マグネシウムホイールのメリット

ホイールの素材ではアルミ合金が主流ですが、2輪レースの最高峰MotorGPなどのレース車や、一部の高性能車ではマグネシウムホイールが使われています。ホイールをマグネシウムにすることは車体全体の軽量化につながりますが、もっと重要なことはバネ下荷重が低減することです。

バネ下荷重について関係するのが、バイクの操安性を左右するジャイロ効果です。ジャイロ効果とは、物体が自転するとその姿勢が安定するように働く現象です。回転するホイールやエンジンのクランクシャフトに働き、高速になるほどジャイロ効果でバイク姿勢が安定し、倒れにくくなります。ジャイロ効果によって直進走行性が安定することは良いことですが、車体を倒して旋回するバイクにとっては、バイクを倒しにくくなり旋回の操作性悪化の原因になります。

ジャイロ効果は、回転体の質量が重いほど大きくなるので、ホイールを軽量化することによって操作性が向上するのです。また、ブレーキ性能についてもホイールの軽量化で向上します。

●マグネシウムホイールの製造法

ホイールの製造法には鋳造法と鍛造法があり、それぞれの特徴は以下の通りです。

鋳造法と鍛造法
鋳造法と鍛造法

・鋳造法:鋳型に金属を溶かし込んで冷却して形成する手法

複雑な形状を作り出すことができ、デザインの自由度が高いのが特徴。熱が加わっても変形しにくいので、高温状態になりやすい部品で使用されます。一方で、製造上の制約から薄い部品を造るのには限界があります。

・鍛造法:金属を金型やプレス機で圧縮、成形する手法

圧縮によって金属密度を高め、肉薄ながら強度が確保できるのが特徴です。鋳造に比べて成形に手間と時間がかかるので、コストは上がります。

鋳造ホイールは、金型で作れるため様々なデザインの安価なホイールが揃えられる一方で、強度を高めるため厚みが必要になり重くなります。一方、鍛造ホイールは、叩いて金属の密度を上げられるので、薄くても強く軽いホイールができます。ただし、製造に手間がかかるのでコストが高くなります。

以上のように、軽量なマグネシウム鍛造ホイールが性能重視のレース車などに採用され、コストを重視する場合はマグネシウム鋳造ホイールが選ばれます。


軽量ながら高い強度を持つマグネシウムですが、日本の普及は欧州に比べて遅れています。材料による軽量化に積極的な欧州のバイクには、モノコックフレームとホイールをマグネシウム、その他CFRPやチタンを多くの部品に使ったモデルが多数あります。

Mr.ソラン

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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