■ノートと同じプラットフォームで素晴らしいスポーツ性能を実現
ルーテシアはルノーの屋台骨を支えるコンパクトハッチモデルで、本国ではクリオの名前で販売されています。
初代クリオは1990年に登場。1998年にフルモデルチェンジされ2代目となり、日本への輸入が始まります。ルーテシアの輸入が始まった当時、日本ではホンダが「クリオ」の名をディーラー名として使っていたため、ルノーは日本での販売名をルーテシアとしました。
今回試乗したモデルは2019年にフルモデルチェンジされた5代目で、日本には2020年から導入されています。
ご存じのようにルノーは日産、そして三菱とアライアンスを結んでいます。このルーテシアは3社開発によるCMF-Bプラットフォームを用いたモデルで、ルノーとしては初のCMF-Bプラットフォーム採用車がこのルーテシアです。CMF-Bプラットフォームは日産では現行ノート、2代目ジュークなどと同一となります。
全長×全幅×全高は4075×1725×1470mmで先代と比べると全長が20mm、全幅が25mmの短縮、全高は25mmのアップとなっています。ほとんどのクルマがモデルチェンジの名のもとボディサイズのアップを行うなか、わずかながらでもボディをダウンサイジングしたことは大きな一歩と言えます。
20世紀末あたりから快適性と安全性の向上のために大きくなったボディですが、今度は技術でコンパクトにする必要があります。
さて、日本に輸入される新型ルーテシアは1.3リットルガソリンターボモデルのみで、グレードはボトムからゼン(受注生産)、インテンス、インテンステックパックの3タイプとなります。
試乗車はトップグレードのインテンステックパック。アダプティブクルーズコントロール(ストップ&ゴー機能付)やアクティブエマージェンシーブレーキ(衝突被害軽減ブレーキ)歩行者・自転車検知機能は全グレードに標準装備されますが、レーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)や360度カメラはインテンステックパックのみの装備となります。
日本車には日本車としての良さがあり、輸入車には輸入車の良さがある…というよりも、そのクルマを作っているメーカーのお国柄が出ます。
日本のクルマはさまざまな部分で抜かりがなく、コストパフォーマンスに優れています。一方で欧州車は突出した部分に魅力を持つものの、国産車では考えられないような「ぬかり」の部分が存在したりするものです。新型のルーテシアに乗ると、そのどちらでもあり、またどちらでもない魅力にあふれているクルマであることが感じられました。
新型のルーテシアは131馬力/240Nmのスペックを持つ1.3リットル直4ターボエンジンを搭載。従来乾式だったDCT(デュアルクラッチ式トランスミッション)を湿式に変更しています。
湿式のクラッチはクラッチがつながった瞬間のトルク変動がゆるやかなのでシフトアップ&ダウン時がスムーズな動きになります。このためモーターサイクルの多くは湿式クラッチを採用しています。
湿式クラッチになったルーテシアは、まず発進が楽になりました。従来のグンッという感じの発進から、グイッという発進になったことでドライバーはもとより、とくに同乗者の快適性が増しています。発進後の変速時もショックが減少しているため、快適性が向上しています。
また、加速そのものの強さもかなり強いものです。1.3リットルとはいえ、131馬力ものパワーを引き出しています。リッターあたり100馬力弱 (正確な排気量は1333ccなので)を絞り出すエンジンのフィーリングは、スポーティカーのようであり、DCTとの組み合わせでじつに軽快な加速を見せます。
ハンドリングについてはさらに感心させられます。最近は世界的にSUVが主流になり、ハイトワゴン系も増えてきています。プラットフォームを設計する際もそうした背の高いクルマがメイン車種となり、派生車種はそこから生まれます。
セダン用に設計されたプラットフォームからできたSUVより、重心が高く足まわりへの負担が大きいSUVを前提に開発されたプラットフォームから発展した5ドアハッチバックのほうがパフォーマンスが高いのは当然で、ガッシリと安定した走りを披露します。
高速道路を走っている際の高い安定感はもちろん、コーナリング時のステアリング操作に対する正確さも気持ちのいいものです。ルノーにはアクティブな4WSを装備するスポールというモデルが存在し、バツグンのハンドリングを誇りますが、それが実現できているのも根底にあるルーテシアのセッティングが素晴らしいものであることだと実感させてくれます。
そして、さらに感心させられるのがACC&レーンセンタリングアシスト(車線中央維持支援)です。日本仕様としてのルノーには初採用となります。
じつはルノーは欧州モデルではACCを採用していて、日本でもテストを行っていましたが、実用化には至りませんでした。その理由は明らかにされていませんが、日本でのマッチングに何らかの障壁があったのは間違いありません。今回使われたACCは、日産が採用しているプロパイロットをルーテシアに合わせたものです。
ACCの追従性能はもちろん、レーンキープについてもきちんと制御され違和感がありません。ストップ&ゴー機能も備えるので、渋滞時にも活躍してくれるはずです。
インテンステックパックの車両本体価格は276万9000円でフル装備状態です。同じプラットフォームを採用するノートの場合、FFの最上級モデルはXで車両本体価格は218万6800円ですが、ACCや車線維持機能であるプロパイロットや360度カメラに相当するアラウンドビューモニターをオプション(かなり多くの装備がセットになっている)で装着すると価格は269万1920円となり、ほぼ同じレベルとなります。
ただし、ノートはエコカー減税の対象で、ルーテシアは対象外なので実際に支払う額はさらに差が開きますが…。
ルーテシアは欧州車らしい突出した魅力を持ちながら価格も含めて、ぬかりないクルマに仕上げてきました。久しぶりに、「こりゃあすごいわ」と感じさせるクルマでした。
(文・写真:諸星 陽一)