元F1レーサー・井出有治のスーパー耐久レース2021は「マクラーレン720S GT3」!強烈なダウンフォースが気持ちイイ!!

■井出有治のS耐、2020はシビックTCRでST-TCRクラス、シリーズ優勝! 2021はクラス&マシン変更で2連覇を目指す!

●井出有治、3年ぶりのGT3マシンは痺れるカッコ良さ「マクラーレン720S GT3」

スーパー耐久レース2020
スーパー耐久レース2020は、TCRクラスでシリーズ優勝を決めた井出有治さん。

2020年はコロナの影響から開幕が大幅に遅れ、9月5日-6日の富士24時間が第1戦となり、その後10月11日・SUGO、11月1日・岡山国際、11月22日・もてぎ、12月13日・オートポリスの全5戦で行われたスーパー耐久レース2020。

元F1レーサーでclicccar試乗テストドライバーの井出有治さんが、久々にS耐に復帰するってことで注目していたら、井出さんの乗るST-TCRクラス・Floral Racing with UEMATSUからエントリーの#290 F・Link Home CIVIC TCRは、初参戦チームでありながらシリーズクラス優勝! スバラシイ!!

さて、2021年は?というと、もちろん、井出さんも引き続き参戦…ですが、マシンとクラスが変更となります。

マクラーレン720S GT3
井出有治さんの乗るFloral UEMATSU FG 720S GT3。これは富士テスト時のもの。本番のレースではカラーリングを一新します。

2021年よりワンメイクタイヤがハンコックに変更(2020年まではピレリ)となったことで、『スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook』と名称変更されたS耐で井出さんが参戦するのは、最高峰クラスST-X。チーム名は『Floral Racing with ABSSA』、マシン名は『Floral UEMATSU FG 720S GT3』、そうマクラーレン720S GT3です!

ドライバーはレギュラーに植松忠雄、澤圭太、川端伸太朗選手の3名で、井出有治選手はドライバー兼テクニカルアドバイザーとしてDドライバーに。また井上雅貴、川原悠生選手がE、Fのサポートドライバーとして参加です。

マクラーレン720S GT3が日本のレースシーンに登場するのは2シーズンぶり。2019年にS-GTのGT300、鈴鹿10時間耐久レース(ドライバーは何と!元F1レーサーのミカ・ハッキネン)で走ったきり。S耐にも2019年に1台のエントリーがあったものの、実際に走ることは無し。ってことで、あの華麗なスタイルを持つマクラーレン720S GT3の走りが日本で見られるのは2年ぶり、S耐に実戦投入されるのは初です。

●720psのモンスタースーパーカー『マクラーレン720S GT3』

マクラーレン720S GT3
2018年に発表されたマクラーレン720S GT3
マクラーレン720S GT3
実質、S耐でマクラーレン720S GT3が走るのは初。さて、そのパフォーマンスは?

車名の通り720ps/770Nmのパワー&トルクを誇るノーマル(GT3のベース車)のマクラーレン720S。車両重量1283kg(最軽量時)で、カーボン・ファイバー・モノコック「モノケージII」が特徴的ですが、GT3になると別物といってヨシかと。専用設計される4.0L V8ツインターボのM840Tエンジンをミッドに積み、電動シフトアクチュエーターが新設された6速シーケンシャル・パドルギヤボックス、専用ボディパネルや専用ウイング、専用ブレーキシステムなどなど、FIAレギュレーションに準じた、とにかくスペシャルなGT3車両です。

そんなレース専用に開発されるGT3マシンに乗るのは、2017-2018年のS-GT GT300ベントレー以来、3年ぶりとなる井出さん。2月27日の富士スピードウェイ・初公式テストで、マクラーレン720S GT3を初めてテストした時の印象を聞いてみました。


●マクラーレン720S GT3の第一印象は「トラック感覚!」、その意味とは?

井出有治さん
マクラーレン720S GT3、カッコイ~!by 井出有治

今まで、レースで乗ったことがあるGT3車両は、そのGT3の中でも「腰高トップ2!」を誇る GT-Rとベントレー。このマクラーレン720S GT3はその真逆で、GT3車両トップクラスの低重心マシン。まさにレーシングカーって感じで、あまりの違いに興奮しました。

ぶっちゃけ、このマシンに乗った第一印象は…「トラックに乗っているみたい?」です(笑)。

ドライバーポジションって、前後のタイヤとお尻の位置で感覚が全く違い、例えば同じFRでも車両の真ん中に座れているかどうかでも違うんです。マクラーレンが「トラック?」の意味は、だいぶ前寄りに座っている…という意味。

前後タイヤの真ん中に座っていれば、リヤタイヤの挙動が分かりやすいので反応が速く効くけど、前寄りに座っていると伝わりにくいですよね。トラックって、リヤが出るタイミングに気が付くのが遅れ、リヤがだいぶ出てからドライバーが気付くので、いざというときに対処が遅れると取り返しがつかなくなる…その感覚。

極端に言えば、マクラーレンもそんな感じ。

その感覚はオレだけなのか? 気にし過ぎるタイプなのかな?って思ったら、他のドライバーもみんな「フロントタイヤの位置とかイマイチ感覚が合わないんだけど、何でだろ? 前に座っているとなんか気持ち悪い!」って、一発目に乗るとみんなそういう違和感があるようでした。

ナイトセッション
富士24時間用のナイトセッション。「夜間の280km/hオーバー1コーナー突っ込みは…怖い!」by川端選手

でも、着座位置が前寄りっていうのはそういう感覚になるものだから、アンダー/オーバーの感じ方に気を付けないと、マシンを作り上げていくうえでセッティングもおかしな方向に行っちゃいます。ただまぁ、それは乗れば慣れますからね。今のスーパーフォーミュラにいきなり乗れ!って言われれば感覚をつかむのに時間がかかるけど、GT3もツーリングカーなので感覚に慣れるのはそんなに難しくはないです。

タイヤが4つ付いていれば、FR、FF、MR、4WD、またフォーミュラマシンでも基本はみんな一緒。ブレーキングでどこまで突っ込められるか?です。 ドライビングでも突っ込めなければいけないし、突っ込めるマシンにしなければいけない、なおかつリヤをきちっと使えるマシンにしなければいけません。初戦のもてぎまでにどこまで作り上げられるか…ですね。

●久しぶりのGT3、ストレートエンドでは約280km/hも出る!

マクラーレン720S GT3
2月の富士テストがシェイクダウン。この地を這うようなマシン…カッコイイ!

いや~しかし、久しぶりにGT3に乗ったので、FSWのストレート、1コーナーに入っていくときのスピード感は気持ちイイです! ブレーキングポイントでは280km/h近く出ています。

同じコースを走っていたGT-Rが268km/hなので、10km/hくらいマクラーレンのほうが速いんですけど、でもそれはトップスピードでの話。最終コーナー立ち上がってからの加速はGT-Rのほうが速いけど、GT-Rはコントロールラインあたりで吹け切っちゃうような感じ。で、その後にマクラーレンが逆転して1コーナーに向けて淡々と速度が伸びていく。

それでもレスポンスは物凄くいいし、パワーもありドライバビリティもいい。GT-Rとの加速感の差を後ろにくっついて見てみたら、300Rまでの間にジワジワ離されていくけど、最終コーナーはずっとGがかかったままコーナリングしていくので、重心が低いことを考えれば逆にGT-Rより有利な部分もあるし、タイムはほぼ同じくらいになるんじゃないかな?

そうそう、マクラーレンってシートの位置が変わらずにペダルとステアリングが前後上下に動くんですよ。面白い!

ST-Xクラス、今年は6台くらいのエントリーになりそうで、ライバルはメルセデス、GT-R、アストン、RC-F、911。BoP(Balance of Performance/車両性能の均一化、性能調整)でどのくらいヤラレちゃうかは分からないけどね。

昨年までのピレリに代わって、今年からはハンコックタイヤでのワンメイク。初春(2月27日)の路面温度が低い中での富士テストではライフも長く使えそうな感じだし、マクラーレンとの相性も問題なし。だけど、路面温度が上がってきたらどうなるか? テストしてみないとね。

マクラーレン720S GT3
カラーリングされ、初戦のもてぎに参上!

2021年、ボクはDドライバーに加えて、他ドライバーが思いっきりレースできるようにアドバイザーとしての仕事があります。もちろん、自分の走るパートはちゃんと繋げられるようにしたいしね。そして、3時間レース(SUGO、岡山国際)は走らずにアドバイザーに専念します。

まだまだコロナ禍。初戦のもてぎ戦では関東4都県は非常事態宣言が開けない中でのレースになります。それでもサーキットまで応援に来てくれるのはとってもありがたいし、新しいクラス、新しいマシンで皆さんの期待に応えられるように頑張ります!(井出 有治)


特徴的なバタフライドアでミッドシップ、ベッタベタな低重心マシンでスタイリッシュな「超カッコイイ!」マクラーレン720S GT3。この生まれながらのレーシングマシンを井出有治選手のマシンセッティング アドバイスと、フローラルレーシング・彦田訓昌監督の采配、Aドラ・箱乗り職人 植松忠雄選手、Bドラの唯一マクラーレン(650S GT3)経験者でアジアン・ル・マン・シリーズ・GTクラスのシリーズ優勝もしている澤圭太選手、Cドラ・松本恵二さん最後の弟子 川端伸太朗選手、Dドラ・元F1レーサー 井出有治選手、Eドラ 井上雅貴選手、そしてFドラ 川原悠生選手という最強メンバーで、2021年のS耐をどう戦っていくのか?

『スーパー耐久シリーズ2021 Powered by Hankook』の初戦は2021年3月20日(土)予選、21日(日)決勝が栃木県・ツインリンクもてぎにて行われます。1年間追っかけしてみたいと思います。

井出 有治永光 やすの/画像:折原 弘之・井出 有治)

【関連リンク】

井出有治オフィシャルwebサイト
https://www.yuji-ide.com/

Floral Racing channel
https://www.youtube.com/channel/UCQqPHs5ia7ehJ2Pg4udHt7Q

この記事の著者

永光やすの 近影

永光やすの

「ジェミニZZ/Rに乗る女」としてOPTION誌取材を受けたのをきっかけに、1987年より10年ほど編集部に在籍、Dai稲田の世話役となる。1992年式BNR32 GT-Rを購入後、「OPT女帝やすのGT-R日記」と題しステップアップ~ゴマメも含めレポート。
Rのローン終了後、フリーライターに転向。AMKREAD DRAGオフィシャルレポートや、頭文字D・湾岸MidNight・ナニワトモアレ等、講談社系車漫画のガイドブックを執筆。clicccarでは1981年から続くOPTION誌バックナンバーを紹介する「PlayBack the OPTION」、清水和夫・大井貴之・井出有治さんのアシスト等を担当。
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