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■接地摩擦による抵抗や空気抵抗もあるが、ほとんどはタイヤ変形による抵抗
●タイヤの構造や空気圧のほか、路面の摩擦係数にも大きく影響される
走行中には、タイヤの変形による損失や路面との接地面での擦熱による損失、回転にともなう空気抵抗による損失が発生します。これらは走行の抵抗になり、転がり抵抗と呼ばれます。
走行を妨げる走行抵抗のひとつの要因、タイヤの転がり抵抗について、解説します。
●バイクを走らせる駆動力と走行抵抗
バイクは、エンジンの出力を動力として駆動タイヤと路面の摩擦力、路面を蹴る駆動力で前進します。車両が一定速度で走行するときに必要な駆動力Fdは次式で表されます。
Fd = Ur・Wt・g【転がり抵抗】 + (1/2)・R・Cd・A・V2【空気抵抗】 + g・Wt・sinθ【登坂抵抗】
(Ur:タイヤの転がり抵抗係数、 Wt:(人+車)質量、 g:重力加速度、 R:空気の密度、Cd:空気抵抗係数、 A:前面投影面積、 V:車速、 θ:登坂勾配)
右辺の第1項はタイヤの転がり抵抗、第2 項は空気抵抗、第3項は坂路を登るときに生じる登坂抵抗です。走行を妨げる右辺の走行抵抗と駆動力が釣り合っているときに一定速度で走行し、駆動力が大きければバイクは加速、小さければ減速します。
●タイヤの転がり抵抗
転がり抵抗は、上式第1項で示されるように転がり抵抗係数と車両質量の積なので、重いバイクほど転がり抵抗は増大します。転がり抵抗係数(RRC)は、タイヤの荷重に対する抵抗の比率(単位荷重あたりの転がり抵抗)を示します。
転がり抵抗 = Ur・Wt・g
転がり抵抗は、次の3つの要因によって発生します。
・タイヤの変形によるエネルギー損失
走行中のタイヤは、変形と元の形状に戻ることを繰り返すことによって熱としてエネルギー損失が発生
・タイヤトレッドと路面との摩擦によるエネルギー損失
・タイヤの回転にともなう空気抵抗によるエネルギー損失
これらの損失が走行の抵抗になりますが、この中でタイヤの変形によるエネルギー損失が転がり抵抗全体の約9割を占める主因です。
一般的に使用されるラジアルタイヤは、バイアスタイヤに比べて変形やすべりが小さく、転がり抵抗は10~30%小さく、最近注目されているエコタイヤの多くはゴム材料を強化してタイヤのたわみを軽減させています。
また、タイヤの空気圧が減少すると変形しやすくなるので転がり抵抗が増大し、空気圧が高いと減少するので燃費は良くなります。
●路面との摩擦力と転がり抵抗
転がり抵抗は、タイヤ自体の構造や形状だけでなく、路面の状況によって大きく変化します。
転がり抵抗係数は、同じタイヤでも路面の違いによって大きく変化します。例えば、平坦なアスファルト舗装路の転がり抵抗係数は0.01、砂利道0.125、砂地または石ころの路面0.165、粘土質の自然路0.25です。雨や雪が降ると、さらに大きく変動します。
転がり抵抗が小さいことは、路面との摩擦力が小さいことを意味しますが、一方でグリップ力は低下しやすくなります。グリップ力が弱いと駆動力がタイヤに上手く伝わらないため、加速性や操作性が悪化します。
タイヤは、小さい転がり抵抗と力強いグリップ力の相反する2つの機能をバランスさせることが重要です。
理想的には、定常走行ではスリップしない程度に転がり抵抗が小さく、トルクが必要な加速時などは転がり抵抗は大きい(グリップ力が強い)ことが理想ですが、そんな運転条件によって転がり抵抗を制御できるタイヤは存在しません。通常は、TRC(トラクションコントロール)などを利用して駆動力を制御します。
(Mr.ソラン)