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■東北6県の新車販売が震災時を下回った2020年、地方でクルマは売れていない
東北運輸局が2020年の新車新規登録台数(東北)の速報値を発表しました。結果は東北6県の統計がある2002年以降で最少です。コロナ禍でクルマ(自家用車)での移動が見直され、新型車も多く発表された年ではありましたが、販売店は苦戦を強いられた2020年、地方における新車販売について考えていきます。
●新車販売全体が苦戦を強いられた2020年
2020年の国内新車販売台数の総計は459万8615台で、対前年比でみると11.5%の減少幅となっています。そのうち登録車は288万527台と対前年比12.3%の減少、軽自動車でも171万8088台と10.1%の減少です。
全国的に見ても新車販売は苦戦を強いられてはいますが、それでも2011年の東日本大震災が発生した年を下回るほどではありませんでした。
緊急事態宣言が発令された4月から5月の販売が大きく落ち込んだものの、10月以降には前年に比べて、新車登録台数は増える傾向が見えています。2019年10月は消費増税が行われた時期で、この時期にも新車の販売は顕著に減ったこともあり、前年比プラスと言っても素直には喜べない状況ではありますが、それでも徐々に新車の販売台数は持ち直してきている状況です。
●大都市圏はクルマ需要が増えたが、地方はどうだろう?
電車での移動が発達し、そもそもクルマを所有していない世帯が多い大都市圏では、コロナウイルスの脅威が広がるとともに、公共交通機関による移動を避ける人も増えました。その中でマイカーという移動手段が見直され、一定程度の新車に対する需要の高まりを感じられたのではないでしょうか。
しかし、地方ではそもそもクルマでの移動が多く、コロナ禍でのマイカー移動の需要増が新車販売に直接的につながらない状況となっています。
東北地方で見ていくと、2020年の新車新規登録台数(速報値)は35万7244台と前年比11.9%のマイナスとなり、東日本大震災が発生した2011年の35万9246台を下回る結果となりました。乗用車は17万3590台で13.5%のマイナス、軽自動車は14万5756台で10.1%のマイナスです。
宮城県内にある、いくつかの新車ディーラーで話を聞いてみましたが、口々に出てくるのは「お客様が来ない、クルマが売れない」という言葉ばかりでした。
2019年の消費増税以降、クルマの販売、特に新車販売は苦しくなり、新型コロナウイルスが追い打ちをかけた格好です。営業マンが直接顧客の元へ行くということも、コロナ禍ではやりにくくなっていますし、多くの新車販売ディーラーでは、営業マンの訪問は行わず、顧客に来店してもらって営業をするという販売スタイルに変わっています。
あの手この手で来店客を誘致しようと試みるものの、外出自粛、巣篭りが推奨される中で、来店客の足は遠のくばかりです。
苦しい状況は、日本経済、中でも東北の経済が止まった東日本大震災時の販売台数を下回りました。この数字は衝撃的なものであり、新車ディーラーの体力もかなり落ちていることが伺えるでしょう。
●販売店が巻き返しを図りたい2021年初頭
日本全国の各地方では、東北地方と同様にクルマの売れ行きが芳しくない事態に直面しています。年が変わった2021年の初頭、重苦しい空気を変えるべく、初売りから動きが変わり始めました。
2020年12月から「初売りの前倒し」を企画した販売店が多く見受けられました。初売り時の特別販売条件を1ヵ月前倒しで適用したのです。また、例年1月11日前後までとしていた初売り期間を1月末ごろまで延長したお店もあり、初売り需要を掘り起こすことで販売台数を伸ばしていきたいという姿勢が見えます。
来店客の減少により商談の機会が激減したことを受け、オンラインを使った商談や、購入相談ができる体制を整えたり、クルマをスマートフォンのように、一定期間で取り換えるモノへ変えていこうと、サブスクリプションサービスを販売店独自で立ち上げる動きも出てきました。
あと2ヵ月で今年度も終わり、決算時期を迎える販売各社は、追い込みをかけるべく必死に動きを見せています。
新型コロナウイルス禍で先々の見通しの立たない世の中で、これまでの来店型販売の形式を守りながら販売にテコ入れをするのか、それとも大きな販売方式の転換を図るべきなのか、その答えはまだ見えてきません。
自動車販売店はクルマの販売と同時に整備をする場所でもあります。このまま販売が落ち込んだままとなると、店舗数の削減など、経営縮小をせざるを得ない状況になるでしょう。
地方にある規模の小さな販売店から店舗網が削減されることにより、地域で唯一メンテナンスを受けることができたお店が無くなる、結果としてクルマが生活必需品となる地方で、クルマの利用に制限がかかるという状況も起こり得ます。
クルマが生活のなかの不可欠なピースとなっている地方では、販売店をどう守っていくのかを、早急に考える必要があるのではないでしょうか。
(文・写真:佐々木 亘)