エアサスペンションとは?空気の圧縮と反力を利用して衝撃を吸収【バイク用語辞典:サスペンション編】

■最大のメリットはスプリングをなくすことによる軽量化

●リアだけでなくフロントサスペンションに採用したモデルも登場

エアサスペンションは、乗り心地が重視される長距離走行のツアラーモデルなどのリア用サスペンションに採用されます。最近になって、フロントフォークにエアサスを採用したモトクロス競技用モデルが登場して注目されました。

フロントにエアサスペンションを採用したSFF-TACについて、解説します。

●エアサスペンションの仕組みとメリット

エアサスペンション
エアサスペンション

エアサスペンションは、従来のコイルスプリングの代わりに空気の圧縮と反力を利用して走行時の衝撃や振動を吸収するシステムです。最大のメリットは、金属のスプリングをなくすことによる軽量化であり、また空気の圧縮で吸収するので乗り心地が滑らかなこと、用途や好みに応じてエア調整によってサスペンションの硬さの調整が自由に設定できることも魅力です。

エアサスペンションの動作
エアサスペンションの動作

乗り心地の良さは、長距離ツーリングやタンデム走行などで疲労を軽減して安全走行につながるため、主としてツアラーなどのリア用サスペンションで採用されています。ただし、コストは高いので採用は限られます。

最近は、リアサスだけでなくフロントフォークのコイルスプリングの代わりに採用されたモデルも登場しています。以下に代表的なフロント用エアサスペンションとしてSFF-TACを例に上げます。

●SFF-TAC(トリプルエアチャンバー)の仕組み

SFF-TACの構成
SFF-TACの構成

SFF(分離機能式フロントフォーク)とエアチャンバーを組み合わせたのが、SFF-TACです。

SFFは、フロントフォーク片側のチューブに加圧ダンパー(減衰機能)を、もう一方のチューブにスプリング(衝撃吸収機能)を左右別々に装備。スプリングを一本にすることで、スプリングとインナーチューブのフリクションを大幅に低減し、スムーズなストロークを実現します。また、構造上より大きなダンパーピストンを配置できるので、確実な減衰性能を発揮します。

以上のSFFの片側フォークのスプリングチューブの代わりに3つのエアチャンバーで構成されたエアサスペンションシステムがSFF-TAC(Triple Air Chamber:トリプルエアチャンバー)です。TACとは、3つの部屋に分けてエアを封入してスプリングと同様の反力を発生させます。

メインのインナーチューブ内にあるインナーエアチャンバーでスプリングと同様の働きをさせ、アウターチャンバーの内側にアウターエアチャンバーとアクスルシャフト近傍にバランスエアチャンバー配置して微調整を行います。

●SFF-TACのメリット

インナーチューブの大径化や低フリクションロスに加えて、最大のメリットは軽量化です。反力を生み出すためのスプリングがないことから約1kg程度軽量化できます。

3つのエアチャンバーの空気圧を専用ポンプによって調整するだけで、スプリングのバネレート変更と同等の効果が得られ、フォークを分解することなく衝撃吸収特性を容易に変更できます。コースや路面状況の変化に応じて素早いサスペンション対応ができるため、モトクロスレース車で採用されています。


サスペンションスプリングには、初期は低入力でスムーズに動いて入力が上昇するとある程度硬くなる特性が求められますが、エアスプリングは元々そのような特性を備えています。問題は、エアはどうしてもリークしやすく、シール性を上げるとフリクションが強まり動きが鈍くなるため、シール性の確保とフリクション低減の両立が難しいことです。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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