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■AIなど最新技術を駆使した車いす
トヨタが運営するトヨタ・モビリティ基金(以下、TMF)は、下肢麻痺者の移動の自由に貢献する革新的な補装具の実現に向けたコンテスト「モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ」の最優秀作品を2020年12月18日に発表しました。
グランプリに輝いたイギリスのPhoenix Instinct社製作の「Phoenix i(フェニックス・アイ)」はじめ、最終審査に残った新型車いすなどを公表したのですが、これらにはAIなど最新技術を駆使したすごい機能が満載! まるで近未来の乗り物のような次世代の車いすを紹介しましょう。
●カーボン製で軽く多機能
2017年11月から開始された「モビリティ・アンリミテッド・チャレンジ」は、障がい者の中でも特に下肢麻痺者の人が自由に移動できる革新的な補装具に関するアイデアなどを募集したもので、世界28ヵ国・80以上のチームの中から、2019年1月に最終候補として5チームを選定。
当プログラムのテクニカルアドバイザーであるピッツバーグ大学人間工学研究所やNESTA(イノベーション推進に取り組む英国NPO)、トヨタ自動車の関連部門等から製品化に向けたアドバイスを受けながら試作品の製作を進めていたものです。
そして、見事グランプリに輝いたのが、前述の通りイギリスのPhoenix Instinct社製作の「Phoenix i(フェニックス・アイ)」。
カーボンファイバーで作られた軽量な1人乗りの車いすであるこのモデルが凄いのは、スマートセンサーの搭載で、乗っている人の動きなどを検知すること。たとえば、前傾姿勢や後ろに傾いているかなどを認識し、アリゴリズムが車いすの挙動を計算します。
それらにより、乗っている人の姿勢に合わせた重心制御を継続的に行い、前輪に搭載したパワーアシストと共に、乗り心地を向上。車輪を押して進んだり、曲がるなどの動作を容易にするほか、振動の軽減なども行います。
また、車いすが不意に後ろに倒れることを防いだり、坂道では自動ブレーキが働くことで、乗る人が車輪を握って減速する必要もないという優れモノなのです。
なお、この車いすを製作したPhoenix Instinct社には、製品化に向けた活動資金100万ドル(約1億336万円)が授与されるそうです。
●車いすごと乗れる電動車
惜しくもグランプリは逃しましたが、車いすでは他にもイタリアのイタルデザインが製作した「WheeM-i」も注目です。これは、車いすごと乗り込んで、都市などの移動を楽にする車いす電動化ユニットです。
ユーザーは、スマホのアプリなどでWheeM-iを予約、最寄りに設置されたハブ(ステーション)まで自分の車いすで行った後は、電動で動くWheeM-iに車いすのまま乗り込んで移動。目的地では、近くにある別のハブに乗り捨ても可能です。ちょうど自転車などのシェアリングサービスのようなシステムだと思えばいいでしょう。
しかも、WheeM-iには障害物との衝突を回避する機能なども搭載。また、スマホのアプリを介して車両にアクセスすると、他の車いすユーザーや別の輸送手段の検索なども可能となっています。
ちなみに、イタルデザインは自動車の有名デザイナーであるジョルジェット・ジウジアーロが設立した会社。マセラティやBMW、フォルクスワーゲンやランボルギーニといった欧州の自動車メーカーが製作したコンセプトカーや名車を手掛けたほか、国産車でもいすゞ・ピアッツァ(1981年)やトヨタ・カローラ(5代目・1983年)などのデザインで有名です。
●日本でも導入が進むハイテク車いす
なお、今回のコンテストでは筑波大学が製作した立位状態で走行できる電動車いす「Qolo」、足が不自由な人の歩行をアシストするアメリカのEvolution Devicesが製作した「The Evowalk」、同じくアメリカのIHMCとMYOLYNが製作した「Quix」もファイナリストに選ばれています。
日本でも、羽田空港国内線第1ターミナルで自律走行も可能な電動車いす「WHILL」が2020年6月8日より人搬送用に導入されるなど、障がい者用のハイテクな乗り物は徐々に実用化に向かっています。
近い将来、先進技術が盛り込まれたこれらモビリティが普及することで、足が不自由な人などでも、より自由に移動できる社会が来ることが期待されます。
(文:平塚 直樹/写真:トヨタ自動車、WHILL)