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■価格は安いとは言わないが、GRヤリスに代わるクルマが存在しない
●俺の言う「安っぽいアンダーステア」とは?
レースにはそれぞれ決められたルールがあって、その一つにホモロゲーションというのがある。ホモロゲーションというのはレースに必要な型式認定のことで、ヤリス(旧ヴィッツ)が参戦しているWRCのトップカテゴリーWRカーのホモロゲーションを取得するには、ベースとなるモデルが連続した12カ月間に2500台以上、車種全体で2万5000台以上という生産台数が必要となるのだ。
2020年シーズンのWRCトップカテゴリーで、ドライバーズタイトルを獲得したトヨタヤリス。来年のシーズンは新型ヤリスをベースとしたWRカーがデビューするはず。そのWRカーのポテンシャルを受け継いだ市販車がGRヤリスということになる。最も高いモデルは456万円というコンパクトカーだが、その実力を試してみた。
今回は筑波山というワインディングでのインプレッションを行った。すでに袖ケ浦フォレストレースウェイや群馬サイクルスポーツセンターといったクローズドでのタイムアタックを行っているので、一般道での実力を試してみた。
その時の印象は「レベルの高い4WD車」ということ。レベルが高いというのは、一般的な4WD車だと、これくらいのスピードでアンダーステアが出るけれどしかたないな。と思ってしまう。しかしGRヤリスはその上のレベルにある。最終的にはアンダーステアが出るけれども、一般的な4WD車のアンダーステアのレベルが違う。それはレーシングスピードでも納得できるアンダーステアの出方なのだ。
俺が言う安っぽいアンダーステアというのは低い速度域でもコーナリング中アクセルが踏めないというものを指す。このGRヤリスでアンダーステアが出るというのは相当、高い次元まで行かないとならないし、俺からすると、このスピード域ならば、誰が乗ってもアンダーステアになるという納得できる領域での話だから全く気にならない。
そこで、今回はワインディングではこれまでの評価がどう変わるのかというのを試してみた。いやぁGRヤリスはワインディングを走行しても楽しいね。とにかくビュンビュン曲がるし、トルクはあるし。これはとても3気筒エンジンとは思えないよ。排気量は1.6Lだけど、知らなかったら2Lターボと言われても納得できるくらいパワフル。
これまではサーキットとかで全開走行しかしたことがなかったけれども、ワインディングでも3速と4速だけで走行できてしまう。特にリアのスタビリティが高く感じられる。ノーズがグイグイ入ってよく曲がるから気持ち良いね。全開で走らなくても気持ち良いクルマというのはそんなに巡り会えないよ。
●こんな感覚を味わえるクルマは他に存在しない
これだけ気持ち良い走りをするGRヤリスの今回試乗したRZグレードは396万円。より走りに磨きを掛けたハイパフォーマンスは456万円。この性能だったらしょうがない。たくさんの人に「GRヤリスは買った方がいいよ」とは言えないけれども、このパフォーマンスが欲しい人にとっては高くはないと思う。それはこんな感覚を味わえるクルマは他に存在しないから。
見た目はチョイ悪な顔のコンパクトカーだけど、走りはもうスポーツカーそのもの。サーキットからワインディングまでどんなシーンでも、ドライバーのスキルに関係なく速く走れると思う。リアを流して向きを変えるクルマではないから。
スポーツカーの定義はこうだとか言っている先生もいるけれども、そういった先生たちにフェラーリやポルシェに乗ってもらって、俺はこのGRヤリスでいいからバトルしませんか?と胸張って言えるクルマだよ。
今回GRヤリスはおもしろレンタカーから借りたクルマで、ここでは昭和から令和にかけての国産スポーツカーを、レンタカーとして借りることができる。今回はこのGRヤリスと一緒に、ある意味、縁のあるR33GT-Rを借り出した。
もう25年前になるあの当時、R33GT-Rに乗った印象はボディが大きいし、重いなと思ったし、セドリック/グロリアと変わらないと思った。でも今乗ってみると、室内の広さによってスポーツカーに乗っている感覚にならない。これはグランツーリスモだったのだと感じるし、現在ならば大きいとは思えない。これはこれでイイクルマだよ。
GRヤリスと同じ4WDだけど、アテーサE-TSというシステムは正確にキレイにコーナーを立ち上がる4WDじゃない。FR・4WD、FR・4WDと切り替わる荒々しさをねじ伏せる楽しみが好きなのだと思う。
ちょっと話はずれたけれども、R32から始まったスカイラインGT-Rもレースで勝つために開発されたクルマだったし、今回試乗したGRヤリスもWRCで勝つために開発されたクルマの市販車バージョン。やっぱりこういった開発者の意気込みを感じられるクルマは、乗っていて楽しいね。
(コメント:土屋圭市、まとめ・スチール撮影:萩原文博、撮影協力:おもしろレンタカー)