点火の電子制御とは?運転条件に応じて適切な火花を飛ばすためのECU制御【バイク用語辞典:点火編】

■エンジン回転と吸入空気量で決まる最適な点火時期に設定

●最適な点火時期に制御することで燃費と出力を向上

シリンダー内の混合気を火花点火することで燃焼は始まるので、点火時期は燃焼のトリガーとして重要な役目を果たします。電子制御では、点火時期はECU内の「点火時期マップ」をベースに演算されます。

適切な点火時期に混合気を着火させる火花点火の電子制御について、解説していきます。

●最適な点火時期とは

理論上、4ストロークエンジンでは上死点(ピストンが最上位置)で点火させ、瞬時に燃焼を終えるのが理想です。しかし実際には、点火プラグの火花が飛んでからシリンダー内の混合気が完全に燃焼するまでにある時間を要します。

したがって、混合気の燃焼によるエネルギーを最大限発揮するには、上死点より前に点火する必要があります。例えば上死点前の20°の点火時期はBTDC20°と表します。BTDCは「Before Top Dead Center(上死点前)」の略です。

点火時期を早めることを進角(アドバンス)、遅くすることを遅角(リタード)といいます。

・点火時期が早過ぎると、
上がってくるピストンを燃焼圧によって逆に押し戻そうとする力が働き、熱効率は低下します。さらに燃焼圧力が上がり過ぎるので、ノッキングなどの異常燃焼が発生しやすくなります。

・点火時期が遅過ぎると、
ピストンが下がった状態で燃焼するため燃焼圧力が低下し、十分な燃焼エネルギーが使えず熱効率は低下します。

すなわち熱効率を向上させるには、早過ぎない、遅過ぎない最適な点火時期を運転条件に応じて設定しなければいけません。

●点火時期の設定の仕方

シリンダー内の圧力(燃焼圧)は、点火プラグの火花によって混合気が着火すると上昇し始め、火炎伝播によって急上昇します。

点火時期と燃焼圧
点火時期と燃焼圧

一般的に最も熱効率が高くなる点火時期は、燃焼圧のピークが上死点後10~12°になる時です。ところが点火してから燃焼圧がピークに達するまでの期間は運転条件によって変化するので、運転条件に応じて点火時期を変更する必要があるのです。

例えば、燃焼速度が遅いときには点火時期を進めて、燃焼速度が速い場合は点火時期を遅らせて燃焼圧のピークを上死点後10~12°にする必要があります。

●点火時期の電子制御

点火時期制御
点火時期制御

現在バイクのほとんどは、電子制御の点火システムと噴射弁システムを採用しています。

点火時期は、エンジン回転数と吸入空気量を代表するスロットル開度(または吸気圧力)をパラメーターにした基本点火時期の「点火時期マップ」を、ECU(エンジンコントロールユニット)内のメモリー領域に持っています。

実際の点火時期は、点火時期マップの点火時期をベースに、吸気温度やエンジン水温などによる補正を行って決定されます。ちなみに、噴射量の決定も同様の噴射量マップをベースにしています。

●電子制御以前の制御方法

電子制御以前の接点(ポイント)式点火システムが採用されていた頃は、「ガバナー進角式」が採用されていました。

ガバナー進角式では、点火時期を決めるポイントカムにバネに取り付けられた2つの重り(ガバナーウェイト)が装着されています。回転とともに、遠心力で2つの重りが外側に振られてカムの位置が変化することによって、自動的に回転とともに点火時期が調整される仕組みでした。

この方法では、点火時期の最適設定には限界がありました。


電子制御によって、点火時期や燃料噴射量などの制御精度は飛躍的に向上しました。近年のバイクの性能向上や燃費向上には、ハード面の技術とともに制御ソフトの進化も大きく貢献しています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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