冷却システムの概説:エンジンを冷却水や走行風で冷やす仕組み【バイク用語辞典:冷却編】

■ほとんどのバイクは水冷エンジン、希少な空冷、過去には油冷も存在

●冷却システムが適正に機能しないとオーバーヒートなどの不具合が発生

ガソリン混合気を燃焼させて出力を得るエンジンでは、発熱量の多くは熱として外気に放出します。そのためエンジンの燃焼室壁面やシリンダー内面などは、温度が上がり過ぎないように水冷あるいは空冷の冷却システムによって冷却しています。

エンジンの冷却システムの構成や特性について、概説していきます。

●水冷エンジン、空冷エンジン、油冷エンジンの違い

現在多くのバイク用エンジンは、エンジン内部に冷却水を循環させる水冷エンジンです。一方、空冷エンジンは外気や走行風だけで冷却するシステム、油冷エンジンは温度が上がる部分に強制的にオイルを吹き付けて潤滑するシステムです。

・水冷エンジン
水冷エンジンでは、温度が上昇しやすい燃焼室壁面やシリンダー周りにウォータージャケット(水通路)を設けて冷却水で冷却します。エンジン内部を冷却して温められた冷却水は、ウォーターポンプによってラジエターに送られます。ラジエターは、走行風によって冷却水を冷やし、エンジンに循環させながら冷却水を設定温度(80℃程度)に制御します。

水冷、空冷、油冷エンジン
水冷、空冷、油冷エンジン

・空冷エンジン
外気や走行風で冷却するため、シリンダーヘッドやブロックに放熱を促進するための冷却フィンを装備しています。構造が簡単で軽量・コンパクトですが、水冷に比べると冷却能力が劣り、制御性が悪いという問題があります。そのため、空冷バイクのモデルは限られます。

・油冷エンジン
冷却水の代わりにエンジンオイルを使い、潤滑と冷却の両方の機能を持たせたのが、油冷エンジンです。温度が上がりやすい部分にオイルを噴射する装置は必要ですが、基本的な構造は冷却フィンを持つ空冷エンジンと同じシンプルな構造です。ウォータージャケットがない分、軽量コンパクトにできます。2020年には12年振りに、スズキの「ジクサーSF250」と「ジクサー250」で復活して話題になっています。

●水冷システムの仕組み

現在主流の水冷エンジンの冷却システムは、ラジエター、ウォーターポンプ、サーモスタット、冷却ファンなどで構成されます。

水冷システム
水冷システム

・ラジエター
ラジエターは、走行風を受けて波板状のフィンで高温のエンジン冷却水を冷却します。冷やされた冷却水は、再びエンジンに戻されてエンジンを冷却します。

・ウォーターポンプ
ウォーターポンプは冷却水をエンジン各部に供給する板金や樹脂製の渦巻き型のポンプです。エンジンと連動しているので回転が上がるほど流量が増え、冷却性能が向上します。

・サーモスタット
始動後冷却水温が上昇するまでは、暖気を促進するためサーモスタットを閉じてエンジン内で冷却水を循環させ、設定温度(80℃前後)に達するとサーモスタットを開いてラジエターに循環させて冷却します。

・冷却ファン
冷却ファンは、ラジエターの後方に設置します。走行風による冷却が期待できない低速やアイドル時また外気が高温の場合に、ファンが回転してラジエターを冷却します。

●オーバーヒート

オーバーヒートは、エンジンによる発熱量が冷却水または走行風による放熱量を上回った時に、冷却水温度が設定温度を超えて沸騰したり、エンジンの温度が許容温度を超えてしまう現象です。

オーバーヒート
オーバーヒート

水冷エンジンのオーバーヒートは、冷却水不足やラジエター、ウォーターポンプ、冷却ファンの作動不良が主要な原因です。一方、空冷エンジンは、酷暑で熱負荷の高い(登坂走行など)運転を続ける、また潤滑オイル不足やオイル劣化によって冷却不足となり、オーバーヒートします。


最近のバイクエンジンは高出力化傾向にあり、その分冷却能力も強化しなければいけません。

本章では、バイク用エンジンの冷却方式について、詳細に解説します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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