■見た目はそのまま、中身は進化!?
ホンダの軽自動車シリーズは2シーターオープンのS660とNシリーズで構成されています。Nシリーズの構成は車高が1790mm程度となるスーパーハイトワゴンがN-BOX(エヌボックス)、車高が1700mmを切るハイトワゴンのN-WGN(エヌワゴン)、商用バン規格とすることでユーティリティ性能を向上したN-VAN(エヌバン)、そして今回フルモデルチェンジしたN-ONE(エヌワン)です。
Nシリーズのなかで、もっともベーシックなモデルと言えるのがN-ONEです。N-ONEの全高はFFモデルが1545mm、4WDが1570mmでN-WGNやN-BOXと比べるとかなり低く、軽ワゴンというジャンルに属するモデルとなります。初代N-ONEは2012年11月に登場したモデルなので、実に8年を経てのモデルチェンジということになります。
今回のN-ONEのフルモデルチェンジは非常に画期的です。それは外板のパネルをほとんど変更することのないフルモデルチェンジだということです。
新しいN-ONEは、2017年にフルモデルチェンジしたN-BOXから採用されている新しいプラットフォームを用いて作られました。つまり中身は新しいのですが、ボディパネルは先代と同様なのです。こうした形でのフルモデルチェンジは非常に珍しいもので、私の記憶する限りでは初の試みのはずです。
この方式については賛否がありますが、私はけっこう賛成しています。
ボディパネルをキャリーオーバーすることで、コストは大幅に抑えられます。一方、中身は変わっているのですから、性能は向上しています。「実を取る」という意味ではかなり大人なフルモデルチェンジと言えるでしょう。
そして、旧型に乗っている人も“古くなった”という印象が減り、新型に乗っている人は“ここが違う”という気持ちを持つことができます。劇的にデザインを変更することは先代に古くささを与え、新型の販促となりますが、このボディパネルを変更しないフルモデルチェンジはまさに中身の勝負となり、そこが大人なフルモデルチェンジと感じさせる部分です。
なお、ヘッドライト、ポジションランプ、フロントウインカー、ドアミラーウインカー、リヤコンビランプなどのエクステリア灯火類はすべてLED化され、その部分が先代との大きな違いとなっています。
では、プラットフォーム以外に何が新しくなったのでしょう? まずシャシー関連です。ダンパーの動きをスムーズにするために、サスペンションのスプリングをオフセットすることでダンパーロッドに働くサイドフォースを低減。コーナリングがスムーズになるようにブレーキを独立制御するアジャイルハンドリングアシスト(AHA)を採用。
FF車には前後スタビライザーを採用。ブレーキペダルはリンク式として、コントロール性を向上。ハンドリングの制御系を変更するなどしています。
エンジンは自然吸気とターボの2種。自然吸気は可変バルブ+VTECを採用し、最高出力は58馬力・最大トルクは65Nm。ターボは可変バルブや電動ウエストゲートを採用し64馬力/104Nmのスペックを実現しています。
グレード展開はベーシックモデルの「Original」、セカンドグレードの「Premium」、上級仕様の「Premium Tourer」、スポーティモデルとなる「RS」の4種となります。
このうち「RS」はFFのみとなりますが、それ以外の3グレードはFFと4WDが用意されます。トランスミッションはCVTが基本で、RSにのみ6MTが設定されます。FF+ターボ+6MTの組み合わせは軽自動車では初となります。
MTはS660と同じギヤレシオを採用。マルチシンクロやカーボンシンクロを採用しシフトフィールを向上。クラッチもS660と同様のもので、高トルクに対応しています。スピードコントロールピークトルクリミッター・クラッチダンパーと呼ばれる機構を採用し、シフトショックとペダル振動も低減されています。
CVTはアクセル開度に対してリニアに反応するセッティングとしています。ブレーキ操作時はステップダウンシフト制御とすることでフィーリングを向上。従来のLレンジをSレンジに変更、SレンジではLレンジよりも穏やかなエンジンブレーキを発生させるとともにブレーキを踏んだ際にはLレンジ相当のエンジンブレーキが効くセッティングとしています。
またRSグレードのCVTは他グレードと異なり、スポーティな走りができるようになっています。
登場が8年も前だったこともあり、初代では未搭載だったホンダセンシングが新型に搭載されました。全グレードに衝突軽減ブレーキ、歩行者事故低減ステアリング、誤発進抑制機能&後方誤発進抑制機能(CVT車のみ)を搭載。もちろん、高速道路を快適に巡航できるACC(アダプティブクルーズコントロール)も標準装備されています。
エクステリアと異なり、インテリアは大幅な変更を受けました。インパネのデザインが変更され、助手席正面は大きくスペースを確保、大柄な体型の人でも足を組めるほどのスペースを確保しています。
CVTのセレクトレバーはインパネから大きく張り出した位置に配置され、操作性を向上。USBポートなど、現代のクルマに求められる装備も充実しました。
先代モデルは約122万円~約180万円だった価格帯が、新型は約160万円~約200万円となりました。約20万円~約40万円程度の価格アップとなりますが、ホンダセンシングやライト類のフルLED化などを考えればしかたないことなのかもしれません。
いや、ボディパネルをキャリーオーバーすることでコストダウンを図ったのに、この価格アップが必要だったのだと思うと、ホンダはかなり努力をしたのだと思いたいですね。
(文/諸星陽一・写真/中野幸次)