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■運転状況に応じて最適な空燃比に設定し、出力や燃費、排ガスを制御
●有害排ガス(CO、HC、NOx)は、理論空燃比(14.7)に設定して三元触媒で浄化
エンジンに吸入される混合気の空燃比(吸入空気と燃料の質量比)は、燃費や出力、排ガス性能などに大きな影響を与える重要なパラメーターです。空燃比は、全域で適正な値になるように運転条件に応じて制御されます。
エンジンに吸入される混合気の空燃比が排ガス特性などに与える影響について、解説していきます。
●理論空燃比とは
シリンダー内に吸入されるガソリンと空気の混合気の濃度を表す指標として、空燃比が使われます。空燃比(A/F)は、吸入空気質量(A)と供給燃料質量(F)の比率で表されます。
混合気が完全燃焼する空燃比を理論空燃比と呼び、ガソリン混合気の理論混合気は14.7です。これは、供給ガソリンの質量1に対して吸入空気質量が14.7であることを示しています。
ガソリンは様々な炭化水素(CnHn+2、CnH2n、・・・)の集合体ですが、仮に代表的なガソリン成分のオクタン(C8H18)の完全燃焼を化学式で表すと、次のようになります。
C8H18 + 12.5・O2 →8・CO2 + 9H2O
したがって、ガソリンが完全燃焼すれば、理論的にはCO2とH2Oだけが排出されるクリーンな燃焼が実現されます。しかし、地球規模でみれば地球温暖化ガスCO2の排出は避けられません。
●実際の混合気の燃焼
実際の燃焼では、理論空燃比(14.7)の燃焼でも有害物質のHCとCO、NOxが生成します。
シリンダーの中では、局所的にみればガソリンと空気が均一に混合しておらず、空燃比にバラツキがあるためです。また、完全燃焼時には燃焼温度が非常に高くなるため、吸入空気中の窒素(N2)が酸化してNOxが生成します。
空燃比と有害3成分の関係は、以下のようになります。
・CO(一酸化炭素)
COは、酸素不足で発生するので燃料が多いリッチ(空燃比が14.7より小さい)混合気で増加して、燃料が少ないリーン(空燃比が14.7より大きい)混合気では発生しません。
・HC(炭化水素)
HCは、完全燃焼する理論空燃比付近で低くなります。リッチ混合気では空気不足で増え、またリーン混合気でも空気過多で燃焼が不安定になるため増加します。
・NOx(窒素酸化物)
NOxは、理論空燃比近傍で燃焼温度が高いため最も多く生成されます。
●空燃比の設定方法
バイクも自動車同様、排ガス規制については通常三元触媒を使って対応します。
触媒は、化学反応によって有害ガスを浄化する部品で、三元触媒は空燃比を理論空燃比に設定すれば有害なCO、HC、NOxを同時に低減できます。
排ガス規制は、規定の排ガスモードを走行したときに排出されるCO、HC、NOxが規制値以下になることを定めた法規です。排ガスモードの運転は、アイドルから部分負荷運転なので、その領域は三元触媒が有効に機能するように空燃比を理論空燃比に制御します。
空燃比は、すべての運転条件で理論空燃比に制御されるわけではありません。出力が必要な全開運転では、出力空燃比と呼ばれる、出力が最も出る12.5~13.0のリッチ(燃料が濃い)空燃比に設定して、全開運転とモード運転の中間領域は空燃比13~14.7に設定します。
その他、冷態時や始動時などはエンジン温度が低く、ガソリンの気化が悪いので、リッチ空燃比に設定します。
エンジンに吸入される混合気は、エンジンのシリンダーの中で発生する燃焼を左右し、出力や燃費、排ガス性能に大きな影響を与えます。特に混合気の空燃比は、運転条件に応じて適正な値に制御する必要があるため、最近はバイクでも自動車同様、電子制御の燃料噴射システムを採用しています。
(Mr.ソラン)