■CクラスベースのSUVとは思えないジェントルさ
メルセデス・ベンツは2016年から「EQ」と呼ばれるブランドを展開しています。EQブランドは電気自動車や燃料電池車などのゼロエミッション車を中心としたブランド展開で、日本では電気自動車のEQCが2019年に発売されました。
今回試乗したGLC F-CELLは車名にEQのワードこそ付かないものの、EQファミリーの一員です。その証拠といってはなんですが、フロントフェンダー後方には「EQ POWER」のエンブレムが装着されています。
GLC F-CELLはEQブランドのクルマとしては日本導入2車種目となります。GLC F-CELLは、その名のとおりGLCをベースとしたモデルです。同様にF-CELLの名前からもわかるとおり燃料電池車です。
非常に特徴的なのが単なる燃料電池車なのではなく、充電もできるPHVなのです。現在、燃料電池車でPHVなのは、この世界で唯一GLC F-CELLだけです。GLC F-CELLは欧州では発売されているモデルですが、ほかの地域で販売されるのは日本だけです。しかもしっかり右ハンドル仕様となっているのです。
いわばGLC F-CELLに乗ることができるのは、なかなかまれな機会といえるでしょう。
システムを少し説明しましょう。システムの要となる水素タンクはリヤシート下に77リットル、センタートンネル内に37リットルの計114リットル分が収まります。タンクは700気圧仕様で約4.4kgが充填可能。充填時間は3分で、ガソリンの給油と変わらないレベルとなっています。
FCスタック、つまり水素を使って発電を行う装置はフロントのボンネット内に収まっています。FCスタックは水素を燃やして電気を作り出すのではなく、化学変化によって電気を作ります。排出されるのは水だけとなります。
一方、PHVシステムの充電池はリチウムイオン電池で容量は13.5kW。アウトランダーPHEVが13.8kWなので、ほぼ同じといったところでしょう。
EQCが前後にモーターを装備する4WDであったのに対し、GLC F-CELLのモーターはリヤのみに装備される後輪駆動となります。モーター出力は200馬力、トルクは370Nmとなります。
走り出すと意外なほどにジェントルです。アクセルを踏み込んだときの加速も、いわゆる電気自動車的な急激な加速ではなく、上級な8気筒エンジン車の加速のような印象で、電気自動車のドッカンとした加速とは異なります。
電気自動車は充電した電気で加速しますが、FCVは発電しながらの加速なのでこうした違いが出る部分もあるでしょうが、「どうだすごいだろ」と主張してくる電気自動車に比べると、ずっと大人のクルマという印象を受けます。
ハンドリングもしっかり感を持ったもので快適です。完全なるEVとなると、バッテリーの容量も多くなるため、床下いっぱいにバッテリーを積むことになります。
こうなると、ロールにしてもピッチにしても動きが起き上がりこぼしのようになりがちなのですが、GLC F-CELLは適度な低重心さを感じて、ゆったりと乗ることができます。
一番の懸念事項は航続距離となるでしょう。
欧州仕様車のWLTPデータによると、水素も電気も満タンの状態で377km、水素のみでは336km、電気のみで41kmの走行が可能です。
増えてきているとはいえ水素スタンドの数には限りがありますし、24時間営業のスタンドを見かけることはありません。充電も急速充電ではなく普通充電のみとなります。
いつでもどこでも給油しながら移動できるエンジン車のような使い方を求めるのだと、ちょっと不便さはあるでしょう。しかし自宅で充電して普段はEVとして使用、中・長距離は水素を充填しながら移動と、計画的に使うなら問題はありません。
さてGLC F-CELLの価格です。GLC F-CELLは消費税込みで1050万円という価格設定が行われていますが一般的な販売はされず、契約終了時に車両を返却しなくはならないクローズエンドリースのみとなります。契約期間は4年で、1ヵ月あたりの支払い額は税込みで9万5000円。リース代金には税金や自賠責保険料なども含まれています。
さらに、4年もしくは15万kmまでが保証されるメルセデス・ケアが付属され、期間中は好きなメルセデス・ベンツモデルを無料で利用できる「シェアカー・プラス」が4回まで利用可能。
今なら充電用設備のウォールユニット(11万円)と工事費用が10万円補助となるキャンペーンも行われています。
(文:諸星陽一/写真:井上 誠)