燃焼室形状の重要性とは?混合気が燃焼する際の効率を左右【バイク用語辞典:4ストロークエンジン編】

■壁面からの熱損失を防ぐため、表面積の小さい燃焼室形状が有効

●最近は、多弁化に対応できる三角屋根状のペントルーフ(三角屋根)型燃焼室が主流

ピストンによって圧縮された混合気が燃焼する空間は、シリンダーヘッドの燃焼室とピストン頂面で形成されます。混合気が効率良く燃焼するためには、燃焼室形状は重要な設計因子です。

燃焼を左右する燃焼室形状について、解説していきます。

●燃焼室形状に求められる要件は?

シリンダーヘッドの燃焼室には、以下の要件が求められます。

・熱効率を向上するために、圧縮比を高くできる。

・吸入空気量を増やせるように極力大きい吸・排気弁を配置できる。

・燃焼室壁面からの熱損失を低減するために、燃焼室表面積は極力小さくする。

・ノッキングが発生しないように、燃焼室壁面の冷却性を確保する。

・効率良く混合気を燃焼させるため、極力点火プラグを燃焼室中央に配置する。

現実的ではありませんが、理想的な燃焼室形状は球状です。球状であれば、容積に対する燃焼室表面積はもっとも小さくなり燃焼室壁面からの熱損失が抑えられ、また球の中心で点火すれば火炎伝播距離は短いので燃焼期間が短くなるからです。

●代表的な燃焼室形状

一般的に採用されているのは、3つの燃焼室形状です。

半球型燃焼室
半球型燃焼室

・半球形型
古くから採用されている、理想に近い半球形の燃焼室形状です。
吸・排気弁が大きくとれるので吸排気効率がよく、点火プラグも中央に配置しやすい利点があります。2弁エンジンでは標準的な燃焼室でしたが、4弁エンジンでは弁駆動機構が複雑になり、採用は減少しています。

多球形型燃焼室
多球形型燃焼室

・多球形型
燃焼を促進するため何種類かの球を組み合わせた燃焼室です。
圧縮上死点でスワール(水平渦)が生成しやすいような形状をしています。形状が複雑なので加工が難しく、燃焼室の表面積が増大するので熱損失が増えて熱効率は低下し、最近の採用例はほとんどありません。

ペントルーフ型燃焼室
ペントルーフ型燃焼室

・ペントルーフ型
現在の主流は、ペントルーフ(三角屋根)型の燃焼室です。
屋根の両サイドに吸・排気弁を配置したもので、4弁エンジンではほとんどがペントルーフ型です。弁駆動機構がシンプルで点火プラグも中央に配置しやすいので、燃焼効率が高い燃焼室です。高性能化のための4弁エンジンでは、狭い空間に4本の弁と中央に点火プラグを配置する必要があるため、必然的にペントルーフ型燃焼室になります。

●ピストン頂面の役割と形状

混合気が燃焼する空間は、シリンダーヘッドの燃焼室とピストン頂面で形成されます。

ピストン頂面の形状は基本的にはフラットですが、圧縮比の調整や筒内流動が生成しやすいように、シリンダーヘッドの燃焼室に合わせて多少の凹凸を付けます。

最近のエンジンは、圧縮比を高くするためにピストン頂面を盛り上げた凸形状が採用され、また吸入空気量を増やすために弁リフト量を大きくする傾向があります。この場合、弁がリフトした時にピストン頂面と干渉する恐れがあるため、干渉しないようにピストン頂面に「バルブリセス」と呼ばれる窪みを形成します。


ピストン頂面の形状を含めた燃焼室形状の最適化は、効率的な燃焼を実現するための重要な設計アイテムです。最近はシミュレーション技術が進み、ある程度まで最適化できるようになりましたが、古くは様々な試作品を製作し、それを試験して最終的に形状を選定していました。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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