ホンダeは、とにかく「ホンダらしい」クルマ 【Honda e試乗】

■FFが得意なメーカーがRRを作るという大胆アプローチ

ホンダe前7/3
昔よく見たコンパクトな2ボックスカーのスタイリングをもつホンダe

ホンダがついに電気自動車に参入。その名も「ホンダe」というわかりやすい車名でデビューしました。

最大の特徴はモーターをリヤに搭載した後輪駆動としたこと。原動機(モーター)の重心点がリヤアクスル(後軸)よりも後方に配置されるので、RR(リヤモーター・リヤドライブ)という方式のクルマです。

ホンダは軽自動車からスーパースポーツのNSXまで、乗用系のモデルをフルラインアップするメーカーですが、その多くの車種はFF(フロントエンジン・フロントドライブ=前輪駆動)車となります。歴史を見ても後輪駆動のクルマは数少ない車種のみとなっています。ましてやRRモデルは初の試みです。

FF、FR(フロントエンジン・リヤドライブ)、RR、MR(ミッドシップエンジン・リヤドライブ)といった単語は、クルマのエンジン搭載位置と駆動方式を表し、基本的な特性や性能を計り知ることができました。

しかしそれは、エンジンが重量物でクルマの重心点を決定づける要素だった時代の話で、EVとなると重量比ではバッテリーが大きなウエイトを占めるので、モーターがリヤにあるからという点はあまり重要ではありません。ただし、リヤタイヤを駆動するという点は非常に重要なポイントとなるのは変わりありません。

ホンダe後ろ7/3
リヤまわりのスタイリングもノスタルジック。丸形コンビランプがフロントとの共通性を感じる
ホンダe真横
真横から見ると、フロントもリヤも、そこそこウインドウに角度がつけられていることがわかる

今どきはコンパクトカーといえばFFが主流。そして自らもFF車に慣れ親しんだ身体で、4mを切る全長のホンダeに乗り込みクルマを走らせると、後ろからシートを押される感覚になんとも懐かしい印象を受けます。交差点を曲がり、ステアリングを切ったままアクセルペダルを踏み込んだ感覚は明らかに後輪駆動です。

駆動と操舵を同じ前輪で行うFFは、いくら洗練されたといってもFFのクセが抜けません。コーナーを回っていく際、FFはステアリングを切った方向とほぼ同じ角度で駆動力が掛かりリヤタイヤが抵抗になりますが、後輪駆動は角度のついた前輪が抵抗になります。そして前輪と手はステアリングシステムを介してつながっているので、その感覚がダイレクトに伝わってきます。

もちろんホンダeはイージーに乗れるクルマなのですが、ステアリング切り角やアクセルコントロール(つまりトラクションの掛け方)を間違うと、それをしっかりインフォメーションしてくれます。じつはホンダeはすごくクルマの基本を教えてくれるクルマだと感じました。

ホンダeインパネ
左右両端はドアミラーの代わりとなるモニター。ダッシュパネルはすべて液晶モニターで構成される
ホンダeサイドカメラミラー
ドアミラーの代わりに、サイドカメラミラーシステムと名付けられたカメラ&ミラーシステムが装着される。モニター装着位置が従来型ドラミラーに近く使い勝手はいいが、どうしても違和感は残ってしまう
ホンダeサイドカメラミラー
ドアに装着されるカメラ部分は小さめで、目立たないデザイン

加速は発進からかなり力強いものです。試乗車はアドバンスという上級のグレードで、最高出力は154馬力、最大トルクは315Nmです。出力はステップワゴンの1.5リットル・ターボ程度ですが、トルクは280馬力の出力を誇った初代NSXを少し上まわる数値。そりゃ、力強くて当たり前です。

そしてコーナリング性能もかなり高い。なにしろ履いているタイヤがミシュランのパイロットスポーツ4というスポーツ系のタイヤなのです。とくにコーナーの半径が大きい高速コーナーでは、バッテリーをフロア下に積む低重心なEVらしいビシッと決まったコーナリングを見せます。

この感覚はコンパクトEVならではと言えるでしょう。どんなに重心が低くても、車高そのものが高いSUV系のEVではこうは走りません。

ホンダeボンネット内
ボンネット内に収まるのは、補機用バッテリーや高電圧コントロール関連ユニット。モーターはリヤに装備する
ホンダe充電口
充電口はボンネット中央の前方に配置。もちろんCHAdeMO対応で、普通&急速充電の2つがある

RRのレイアウトによってフロントタイヤの切れ角を大きくすることが可能となり、結果として最小回転半径も4.3mとかなり小さくなりました。NワゴンのFFが4.5mですから、いかに小回りが効くかがわかるでしょう。

今回の試乗会では大量の段ボール箱を積み重ねて作った巨大迷路を走るイベントがあったのですが、取り回しと見切りの良さで1750mmの全幅を感じない走りができました。

ホンダeフロントシート
フロントシートはさほど大きくはないが、ホールド性もよく疲れにくいタイプ
ホンダeリヤシート
フロアが高くクッション前後長も短めなので、リヤシートの居住性はイマイチ。ただ、シート地の質感はいい
ホンダe ラゲッジ
実用性の高いラゲッジルームを装備。リヤシートバックは一体可倒式

ホンダではホンダeを都市型コミューターと呼んでいます。搭載されるバッテリーは35.5kWhで、アドバンスの場合の航続距離はWLTCモードで259kmとなっています。

しかし、考えてみて下さい。初代リーフに搭載されたバッテリーは20kWhで、JC08モードで航続距離は200kmでした。初代リーフの後期型でもバッテリー容量は30kWh、JC08モードで航続距離は280kmだったので、ホンダeが都市型コミューターと言っているわりにはじつはそれなりの長距離ドライブも可能となるはずです。

ホンダeタイヤ
タイヤはミシュランのパイロットスポーツ4とかなりスポーティなものを装着する

標準タイプが451万円、アドバンスが495万円という価格はちょっと二の足を踏んでしまいます。電気自動車のほうがエンジン車に比べて、ランニングコストが安いのは確かですが、固定費としての価格はやはり高いです。そこがもっとも気になる点なのです。

しかし、あらゆる部分にホンダらしい革新性を感じられ、ホンダがEVを作るならこのアプローチだろうなあ、と感じます。ホンダの最初のハイブリッド車がインサイト(今のインサイトとはまったく違うクルマだった)であったようにです。

ホンダe正面
正面からみるとキュートなスタイリング
ホンダe真後ろ
真後ろから見るとドアミラー代わりのカメラが見えず、いかに小型化されているかがわかる

(文・写真/諸星 陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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