1993(平成5)年にスズキが発売した「ワゴンR」は1990年代の軽自動車を代表するクルマになり、「ハイトワゴン」という新しいコンセプトを定着させました。1980年代の軽自動車が軽ボンネットバンの「アルト」で始まったように、1990年代は「ワゴンR」で作られました。
ハイトワゴンは、従来の軽自動車の常識を覆す車高の高さを実現して、圧倒的な居住空間の確保によって一大ブームを起こしたのでした。
第5章 軽自動車・第2黄金期(1980-2000年)と鈴木自動車
その4.現在も続くハイトワゴンの大ブームを起こした「ワゴンR」
●軽ボンネットバンの人気の凋落
1980年代は、1979(昭和54)年に登場した「アルト」が火付け役となり、商用車ベースの軽ボンネットバンが市場を席巻しました。商用車には、物品税が課せられず販売価格が抑えられることが最大のメリットでした。
ところが、1989(平成元)年に消費税が導入されたことで物品税は廃止され、商用車と乗用車の税制格差がなくなりました。これによって、軽ボンネットバンの大きなメリットが消失して、人気は下降の一途をたどるようになってしまいました。
●「ワゴンR」の登場
1990(平成2)年、三菱自動車からそれまでの軽自動車のスタイルとは全く異なる「ミニカトッポ」が発売されました。全高を高くしたハイトワゴンの原型となる軽自動車で、全高を高くしただけなので頭上の空間は広がりますが、それほどのありがた味はありませんでした。
真のハイトワゴンという新しい軽自動車のジャンルを確立したのは、1993(平成5)年に登場したスズキの「ワゴンR」です。最大のポイントは、車高の高さを利用してホイールベースを広げ、シートも上げることで大人4人が余裕をもって乗れる居住空間を確保したことでした。
1980年代にヒットした軽ボンネットバンは、2人乗車が前提の女性をターゲットにしたセカンドカーでした。一方、快適で使い勝手の良さを追求したハイトワゴンは、セカンドカーというよりも若者のレジャー用からファミリー層が使う便利な乗用車までその用途は大きく広がりました。
●「ワゴンR」の技術特徴
「ワゴンR」は、車高を「アルト」の1385mmから1640mmと頭一つ分高く、さらにホイールベースは2335mmとクラス最大に設定し、これまでの軽自動車になかった圧倒的なサイズ感を実現。また、サイドシルの高さを低くしてフロアとの段差をなくし、加えてシートの背もたれの角度を立てたポジション設定にしているので自然な姿勢で乗降が可能、これも大きなセールスポイントになりました。
排気量657ccのSOHC12バルブ3気筒エンジンは、低速トルク重視ながら最高出力55PSを発揮。トランスミッションは、5速MTと3速ATが設定され、1995(平成7)年にはインタークーラーターボ仕様が追加されました。
爆発的な人気を博した「ワゴンR」は、発売から3年2ヶ月で累計販売台数50万台を達成して首位を独走。1994(平成6)年に軽自動車として初の「RJCカー・オブ・ザ・イヤー」に輝く快挙を成し遂げました。現在もモデルチェンジしながら販売数を増やし、軽自動車史上最大のヒットになっています。
●ハイトワゴンの進化
「ワゴンR」に続いて、1995(平成7)年にダイハツ「ムーヴ」、1997(平成9)年にホンダ「ライフ」、1998(平成10)年に三菱自動車「トッポBJ」が追走し、特に「ワゴンR」と「ムーヴ」は現在も続く熾烈なトップ争いをしています。
2003(平成15)年には、ダイハツが全高を1725mmまで上げた「タント」を発売。ハイトワゴンよりさらに全高を上げた「スーパーハイトワゴン」という新たなジャンルを確立させ、その後スズキ「パレット」「スペーシア」、ホンダ「N-BOX」、日産「デイズ」が続きました。
ハイトワゴンとスーパーハイトワゴンは、合わせて軽乗用車の7割程度のシェアを保持し、現在も軽自動車を牽引しています。
(文:Mr.ソラン 写真:三菱自動車、スズキ、ダイハツ工業、ホンダ、日産自動車)
第23回に続く。
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