「フロンテクーペ」軽自動車の枠でジウジアーロデザインの世界一小さなスポーツカーの誕生【スズキ100年史・第14回・第3章 その4】

ホンダ「N360」の登場以降、軽自動車にも熾烈な高出力競争が勃発し、鈴木自動車も「フロンテ360」の高出力スポーツバージョンで対抗しました。

そして1971(昭和46)年に満を持して登場したのが、軽自動車初の2シータークーペ「フロンテクーペ」でした。ジウジアーロのデザインをベースに、ひときわ低い車高で形成されるスタイリッシュなフォルムが大きな注目を集めました。最高速度は120km/h、0→400m加速は19.47秒と他を圧倒する走りを誇ったのです。

第3章 軽自動車・第1期黄金期(1960-1972年)と鈴木自動車

その4.世界一コンパクトなスポーツクーペ「フロンテクーペ」

●「フロンテ360」の高出力化

1967(昭和42)年、ホンダから最高出力31PSの4ストロークエンジンを搭載した「N360」が登場し、軽自動車は高出力化時代に突入しました。

対抗する鈴木自動車は、同年に2ストローク3気筒の「フロンテ360」を発売し、最高出力はN360に劣る25PSながら、レスポンスの良いエンジンと軽量ボディによる軽快な走りが評価され、N360に続く大ヒットになりました。

フロンテ360
フロンテ360

さらに1968(昭和43)年には、高性能スポーツバージョンのビートマシーン「フロンテSS360」を発売。最高出力を36PS(排気量1リッター当たり100PS)まで引き上げ、最高速度は125km/h、0-400m加速は軽初の20秒切りを達成したのです。

●「フロンテクーペ」デビュー

フロンテの3代目「フロンテ71」をベースに、1971(昭和46)年に誕生したのが「フロンテクーペ」です。

フロンテクーペ
フロンテクーペ
フロンテ71
フロンテクーペのメカはフロンテ71のものを母体にしている。

スタイリッシュなデザインは、1970年~1980年代に数々の名車をデザインして一世を風靡したイタリア人のジウジアーロのデザインをベースにしています。当初は4人乗りのミニバン的なフォルムでしたが、鈴木自動車でアレンジしてクーペスタイルに変身させたのでした。

キャッチコピーは「ふたりだけのクーペ」。当初は2シーターのみでしたが、その後リアシートを備える4人乗りが追加。クーペとして美しいフォルムとスポーティさを兼ね備えたスペシャリティカーとして人気を呼び、現在も名車のひとつとして名前が上がります。

●フロンテクーペの何がすごい

ノーズを抑えてフロントガラスを深く傾斜させ、長いホイールベースに、軽自動車では最も低い1200mmの車高で形成されるスタイリッシュなフォルムが大きな注目を集めました。また、当時フェアレディZでしか採用していなかった2シーターであった点もスポーツカーらしさを印象づけ、インテリアについても独立単眼の6連丸型メーター(燃料計、速度計、回転計、水温計、電流計、時計)、チルト式ステアリング、バケットタイプのシートを採用して、スペシャリティさをアピールしました。

そして何よりもインパクトを与えたのは、クーペの名に恥じない圧巻の走りでした。

排気量356ccの2ストローク3気筒エンジンにCV3連キャブレターを装着して37PSもの最高出力を発揮。

サスペンションは、フロントがダブルウィッシュボーン、リアはトレーリングアームと固めの4輪独立懸架とし、RR(リアエンジン・リアドライブ)との組み合わせによって、小気味よいコーナリング性能を実現。4速MTと組み合わせて、最高速度は120km/h 、0→400m加速は19.47秒と、軽初の20秒切りを達成し、他を圧倒したのでした。

ロールバーやバケットシート、3点式シートベルトなどをオプション設定した「フロンテクーペ」は、モータースポーツを意識したもっともコンパクトなスポーツクーペと位置付けられました。

(文:Mr.ソラン 写真:スズキ)

第15回に続く。


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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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