物損事故の損害賠償とは?加害者本人か加害者が加入している任意保険で賠償【自動車用語辞典:交通事故編】

■人命や身体に損害が生じるのは人身事故、クルマや建物に損害を与えるのが物損事故

●刑事罰を受けない、免許の減点がない、慰謝料が不要で賠償金の金額が安い

交通事故には、人命や身体に損害を与える人身事故の他に、クルマや建物などに被害を及ぼす物損事故があります。物損事故には自賠責保険が適用されず、加害者本人か加害者が加入している任意保険で賠償します。

物損事故の損害賠償の算定額について解説していきます。

●人身事故と物損事故

交通事故で人命や身体に損害が生じた場合、人身事故、人命や身体に損害はなくクルマや建物に損害を与えると物損事故になります。

・人身事故

人身事故では、自賠責保険が適用されます。

賠償額が自賠責保険の限度額を超えた場合は、加害者本人もしくは加害者の加入している任意保険が賠償します。

・物損事故

物損事故では、自賠責保険が適用されません。

加害者本人もしくは加害者の加入する任意保険が賠償を行い、賠償額が任意保険の限度額を超えた場合は、加害者本人が負担します。なお加害者の過失や因果関係など損害が生じたことの立証責任は、被害者が負います。

●請求できる物損事故の損害

クルマ同士の物損事故では、破損したクルマの修理費や評価損(格落ち損)、買い替え費用、代車使用料などの損害賠償の請求ができます。被害者側にいくらかの過失責任がある場合は、加害者側と被害者側の過失割合に応じて負担します。

クルマ同士でない物損事故の建物やガードレール、カーブミラーなども、その損害を請求できます。また店舗や積荷に損害があった場合も、商品や店舗の補償はもちろん休業災害や片付け費用などを請求できます。

交通事故例
交通事故例
物損事故の損害賠償項目
物損事故の損害賠償項目

●物損事故の積極損害

物損事故の積極損害には、修理が可能な場合は修理費と評価損(格落ち損)が、修理が不可能な場合は買い替え費用があります。また、代車の使用料や片付け費用も請求できます。

・修理費

修理の実費が認められますが、修理費が中古車市場の評価額を超えてしまう場合は、全損扱い(買い替え相当)です。部品交換費や作業工賃などは全額認められますが、塗装料金は事故で破損した部分以外は認められません。

・評価額

事故によって中古車市場価格における売却額や下取り額が下がった分の損害です。保険会社は全額を認めないケースが多く、裁判でもバラツキがあります。

・代車使用料

被害者車両の修理期間中、または買い替え車が納入されるまで、被害者がレンタカーなどの代車を使用した場合、その代車使用料を請求できます。

●物損事故の消極損害

事故により店舗が破損した場合や被害車両がタクシー、トラックなどの営業車であった場合は、修理(買い替え)期間中は営業を行うことができません。その間の収入分を、「休車・営業損害(休業災害)」として請求できます。

休車、営業損害は、1日あたりの営業収入から経費を引き、これに日数を乗じて算出します。

休車・営業損害 = (1日あたりの平均売上 - 1日あたりの必要経費) × 日数

●物損事故の慰謝料

物損事故の慰謝料は、基本的には認められません。

一般に物損事故による損害は、身体の損害とは異なり金銭によって代替することができ、損害賠償を受けることにより精神的苦痛は除去できるため、慰謝料を認めることはできないとされています。


物損事故は人身事故と比べると、加害者が刑事罰を受けない、免許の減点がない、慰謝料が不要で賠償金の金額が安いなど、大きな差があります。加害者側は、物損事故になるとメリットが大きいので極力物損事故で済ましたいと考えます。

事故に遭ったら、ケガがなくても念のため必ず医師の診察を受けましょう。一旦物損と報告した後で、事故による症状が出てから、人身事故に変更するのはとても厄介です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる