日本初のスピードメーター搭載車やジウジアーロデザインのロータリーエンジン車も展示【スズキ歴史館 2輪車編】

■歴代市販バイクが勢揃いするスズキ歴史館

スズキ歴史館に展示されている車両から、スズキ100周年の軌跡を振り返るバイク編です。

4輪自動車編でも紹介しましたが、スズキ歴史館(静岡県浜松市南区増楽町1301、TEL053-440-2020)は本社前に建てられたスズキの製品を展示する博物館です。

suzuki_rekisikan09
スズキ歴史館。

見学するには事前予約が必要で、電話かインターネットから申請できます。入場無料ですので、スズキのバイクに興味がある人なら一度は見るべき価値がある博物館と言えるでしょう。

スズキ歴史館は現在も新型コロナウイルス感染拡大を防ぐため、入場者数の制限や団体での見学を禁止しています。取材のため訪れた時は、まだ一般来場者を受け付けていない休館日でした。

suzuki_rekisikan10
スズキ歴史館の入り口。

1階には現行型の人気車とともに、歴代のレーシングバイクがズラリと並んでいます。このラインアップだけでも目が点になりそうですが、建物の左手にある階段で3階へ向かいます。

suzuki_rekisikan11
スズキ歴史館1階に並んだレーシングモデルたち。

3階にはスズキが歩んできた100年を製品やパネルで紹介してあります。今回はバイクにスポットを当ててみましょう。

●黎明期のバイクたち

スズキは1909年に初代社長の鈴木道雄が足踏み式織機を発明したことで創業します。太平洋戦争が終結すると、自動車産業へ進出しますが、その第一歩が1952年に発売した自転車用補助エンジンの「パワーフリー」でした。

その翌年には原動機付自転車としてフルサイズの「ダイヤモンドフリー」を発売します。当時の社長で二代目の鈴木俊三の彫像とともに展示されています。

suzuki_rekisikan12
スズキ歴史館3階の入り口に置かれたスズキ初代社長、鈴木道雄氏の彫像。

さらに1954年になるとダイヤモンドフリーなどの2サイクルエンジンではなく、4サイクル単気筒OHV90ccエンジンを搭載する「コレダCO」が発売されます。国産量販車として初めてスピードメーターを装備したモデルでもありました。

1954_kolleda
1954年発売スズキ・コレダCO(左)。

その後、コレダを発展させるとともに「セルペット」というニューモデルを1960年に発売します。これはホンダ・スーパーカブが発売され大ヒットしたことを受けたモデルともいえ、モダンなデザインと2サイクルのパワフルなエンジンが特徴でした。写真は1963年の後期モデル「セルペット50M30」です。

1963_selpet50m30
1963年発売スズキ・セルペット50M30(左)。

この時代、スズキは果敢に世界グランプリに打って出ます。その成果は1962年のイギリス・マン島TTレース50ccクラスに現れます。写真のRM62にE・デグナーが乗り優勝したのです。実にこの年はライダー・メーカー両タイトルを獲得するという大活躍の年になりました。

1962_rm62
1962年イギリス・マン島TTレース優勝車のスズキRM62。

世界グランプリで優勝を果たした勢いもあり、1963年には車名にスポーツが与えられた「スポーツM12」を発売、続く1965年には79cc、2サイクルエンジンを搭載する「スポーツ80K11」が発売されました。

1965_80k11
1965年発売スズキ・スポーツ80K11。

同じエンジンを積むビジネスバイクとして「セルペット80K」がラインナップされ、さらに1968年に「スポーツAS50」、1969年に「ウルフT90」と原付スポーツを充実させるのです。

1965_80k-1968_as50-1969_t90
手前から1965年発売スズキ・セルペット80K、1968年発売スズキ・スポーツAS50、1969年発売スズキ・ウルフT90。

原付だけでなく、1965年にはスズキ初の自動二輪車となる、250ccエンジン搭載の「T20」が発売されます。T20は「T21」「T250」へと発展していきますが、1967年にはアップマフラーやアップハンドルを装備するオフオードタイプの「スクランブラーTC250」が発売されるのです。

1967_tc250
1967年発売スズキ・スクランブラーTC250。

このモデルが後のTS・ハスラーシリーズを生み出す原点でもありました。

●フルラインナップを完成させる1970年代

250ccエンジンを搭載するT20以降、スズキは排気量を拡大させるとともにモデルの多様化を進めます。

まず1969年にTC250を発展させた「TS250」が発売されます。このモデルからオフロード系にハスラーという愛称が使われ始めるのです。ハスラーは1971年に「TS90」、1971年に「TS50」「TS125」と立て続けに発売され、オフロードシリーズを充実させます。そして1972年には、車検が必要な400ccクラスにも進出して「TS400」を発売しました。

husler
1971年から発売が続いたスズキTS・ハスラーシリーズ。

大排気量化は時代の波でもありました。1969年にホンダがCB750FOURを、同時期にカワサキが500SSマッハを発売してアメリカ市場をメインに大ヒットします。

そこでスズキは738cc水冷2サイクル3気筒エンジンを開発、1971年に「GT750」として発売します。その圧倒的なパワー感はアメリカでも大いに支持され、ウォーターバッファロー(水牛)の愛称で呼ばれました。

1971_gt750
1971年発売スズキGT750(手前)。

この時期、スズキは意欲的なモデルを発売しています。

ヴァンケル式ロータリーエンジンを開発したマツダ(当時は「東洋工業」)は1960年代にコスモスポーツ、ファミリアロータリー、ルーチェロータリークーペと立て続けにロータリーエンジン搭載車を発売していましたが、なんとこのロータリーエンジンをバイクに載せてしまったのです。

それが1974年に発売された「RE-5」で、水冷シングルロータリー497ccエンジンをジョルジェット・ジウジアーロがデザインした車体に搭載していました。オイルショックの影響で1年余りで生産を終了しています。

1974_re-5
1974年発売スズキRE-5。

2サイクル、ロータリーと続き、スズキはいよいよ4サイクルの自動二輪車を開発します。1976年に発売された「GS400」は、同社初の4サイクル400ccの2気筒エンジンを搭載していました。

同年には4サイクル4気筒DOHCエンジンを搭載する「GS750」も発売され、4サイクルエンジンの時代が始まります。

1976_gs400
1976年発売スズキGS400。

次の時代へ行く前に、ちょっと珍しい1台を紹介しましょう。

1970年代は少年向けスポーツサイクル、自転車にスーパーカーのようなスタイルを取り入れることが流行りました。これを受けてスズキは、スズキサイクルとして自転車の世界にも進出していたのです。

フレーム上に設けられた変速ギアや大型デュアルヘッドライトとウインカー、大きなテールランプなど、当時の定番をすべて取り入れていました。

1979_suzuki-cycle
1979年発売スズキサイクル。

●現在へ続く1980年代からの流れ

1980年代はバイクの世界でも多様化と個性の演出が広がりました。1976年に2サイクルではなく4サイクル4気筒DOHCエンジンを搭載するGS750を発売したスズキは、GS750にキャストホイールを装備する「GS750E」を発売します。

GS750Eの隣にはスズキの新時代を感じさせた名車「GSX1100Sカタナ」と同時に発売された「GS650G」が並び、2台のあまりに違うスタイリングに時代を感じます。

1980_gs750e
1980年発売スズキGS750E(手前)。隣が1981年発売スズキGS650G。

1980年のケルンショーで発表され、海外モデルとして1981年に発売された「GSX1100Sカタナ」は、もはや名車中の名車です。

ハンス・ムートによる日本刀をモチーフにしたデザインは、現代の目で見ても新鮮さを失っていません。国内では750ccを排気量の上限とされていた時代ですので、同じデザインの車体にアップハンドルと750ccエンジンに変更した「GSX750Sカタナ」が発売されました。

1981_gsx1100s
1981年発売スズキGSX1100Sカタナ。

1980年代はレーサーレプリカブームが巻き起こりました。きっかけは1980年に発売されたヤマハRZ250/350ですが、ブームを本格化させたのが1983年発売の「RG250Γ(ガンマ)」です。

アルミ製ダブルクレードルフレームにフルカウルを装備する、まさにレーサーのような出で立ち。さらにタコメーターが3000rpmから始まるという高回転型2サイクルエンジンは、市街地で極めて扱いにくいものでしたが爆発的なヒット作になります。

1983_rg250γ
1983年発売スズキRG250Γ。

ガンマといえば忘れていけないのがウォルターウルフカラーです。1985年当時のワークスレーサー、RG500Γと同じカラーリングは斬新極まりないものでした。

1985_rg250ww
1985年発売スズキRG250Γウォルター・ウルフ。

その1985年、ワークスレーサーを400ccにスケールダウンした市販車「RG400Γ」が発売されます。4気筒を正方形に配置したスクエア4、2サイクルエンジンはまさにレーサーです。同時に発売された「RG500Γ」とともに、現在はコレクターズアイテムとして中古車価格が高騰しています。

1985_rg400γ
1985年発売スズキRG400γ。

レーサーレプリカばかりではなく、1984年には小さな車体にバギーのような幅広タイヤを履いたレジャーバイク「バンバン50」が発売されます。このスタイルは長く人気で、2002年に199ccモデルの「バンバン200」がリバイバルされています。

1984_rv50vanvan
1984年発売スズキRV50バンバン。

原付でもユニークさを発揮するスズキは、1986年にフルカウルを装備する50ccとして「RB50GAG」を発売します。車名の通りでギャグのような存在ですが、その作りは本格派でした。

1986_rb50gag
1986年発売スズキRB50GAG。

1980年代はスクーターブームの時代でもありました。ただ新型車競争が激化していたホンダ・ヤマハと一線を画していたスズキは、女性向けビジネスバイクとも呼べるユニークな存在の「モレ」を1986年に発売します(写真左)。

また、1987年にはレーサーのような走りを備える「ハイR」(写真中央)を、1989年には6.8psエンジンの「セピア」(写真右)をそれぞれ発売しています。

1986_mollet
右から1986年発売スズキ・モレ、1987年発売スズキ・ハイR、1989年発売スズキ・セピア。

自動二輪でレーサーレプリカブームを牽引したスズキは、1987年に世界最速を目指した究極的なモデルを発売します。それが「GSX-R1100」で、当時のTT-F1レーサーそのもののようなマシン。0-400m加速はわずかに10.3秒でした。

1987_gsx-r1100
1987年発売スズキGSX-R1100。

世界グランプリWGPへの参戦を休止していたスズキですが、1988年に500ccクラスへ復帰します。開幕初戦の日本GPで、前年チャンピオンのホンダ・ワイン・ガードナーを抑え見事に優勝したのが写真のケビン・シュワンツが乗った「RGV5000Γ」でした。

1988_rgv500γ
1988年日本GP優勝車スズキRGV500γ。

激動の時代を歩んだスズキのバイクたちは、今見ても輝きを失っていません。スズキが歩んだ100年の道のりに欠かせないバイクたちを、ぜひ目に焼き付けておきましょう。

(増田満)

【関連リンク】

スズキ歴史館
所在地:〒432-8062 静岡県浜松市南区増楽町1301
電話:053-440-2020
アドレス:https://www.suzuki-rekishikan.jp/
休館日:月曜日、年末年始、夏季休暇など
開館時間:9:00~16:30(16:30閉館)
入館料:無料(電話またはインターネットにて要事前予約)

この記事の著者

増田満 近影

増田満

複数の自動車雑誌編集部を転々とした末、ノスタルジックヒーロー編集部で落ち着き旧車の世界にどっぷり浸かる。青春時代を過ごした1980年代への郷愁から80年代車専門誌も立ち上げ、ノスヒロは編集長まで務めたものの会社に馴染めず独立。
国産旧型車や古いバイクなどの情報を、雑誌やインターネットを通じて発信している。仕事だけでなく趣味でも古い車とバイクに触れる毎日で、車庫に籠り部品を磨いたり組み直していることに至福を感じている。
続きを見る
閉じる