フェニックス計画による燃費改良【マツダ100年史・第18回・第5章 その3】

【第18回・2020年7月18日公開】

1973(昭和48)年のオイルショックによってガソリン価格が高騰し、自動車は性能より燃費が重視されるようになりました。ロータリーエンジンの燃費はレシプロエンジンより劣っていたため、特に東洋工業は国産車メーカーの中でも大きな打撃を受けました。
この状況から脱却を図るため、東洋工業は1974(昭和49)年1月に「フェニックス計画」を発表します。これはロータリーエンジンの燃費を40%改善するという大胆な計画でした。
「技術で叩かれたものは、技術で返す」を合言葉に計画通り燃費を改善し、ロータリーエンジン存亡の危機を乗り越えたのでした。

第5章 排ガス規制とオイルショック(ロータリーの歴史2)

その3.フェニックス計画による燃費改良

●そもそも、なぜロータリーエンジンは燃費が悪いのか

ロータリーエンジンは爆発によってローターを直接回転させて動力を取り出すので、いっけん効率的な機構といえますが、その一方で熱効率はレシプロエンジンに比べて劣るため、結局は燃費が良くありません。
熱効率とは、ガソリンの燃焼によるエネルギーが、どれだけ動力エネルギーに変換されるかの割合です。
ロータリーがレシプロに対して燃費(熱効率)が劣るのは、主に次の理由からです。

・冷却損失が大きい
燃焼によって発生する熱が壁面から奪われる熱損失は、S/V(表面積/体積)比が小さいほど小さくなります。もっとも小さいのは球形燃焼室で、ローターとハウジングで形成される複雑な燃焼室形状のロータリーは、熱損失が大きく、熱効率が低下します。

・シール部の摩擦損失が大きい
レシプロでは、燃焼ガスのシールによる摩擦損失が起きるのはピストンリングだけです。ロータリーは、アベックスシールとローター側面をシールするサイドシール、さらにアベックスシールとサイドシールの繋ぎ目となるコーナーシールの3種類のシール部があり、またシールの接触面が長いので摩擦損失が大きく、この点でも熱効率が低下します。

サイドハウジングを外して見えるロータリーエンジン内部。
ロータリーエンジンのサイドハウジングを外したところ。どこにも固定されず、浮遊にも似た状態で回転運動をするローターだけに、レシプロに比べてより確かなシーリングがキーとなる。それが逆にアダとなって摩擦損失の増加、ひいては燃費悪化の要因となっていた。

●さらに燃費を悪化させたサーマルリアクター

これはレシプロエンジンでも施された対策手法ですが、排ガス中のCO(一酸化炭素)、HC(炭化水素)低減のため、排気系にサーマルリアクターを装着しています。
サーマルリアクターとは、排気ポートの下流に装着した断熱性の高い熱反応器です。この熱反応器にエアポンプからの新鮮な空気(酸素)を導入することで、未燃のHCとCOを燃焼させるシステムです。
サーマルリアクターの中で、導入された空気でHCとCOを燃焼させるためには、エンジンの空燃比(吸入空気とガソリンの重量の比)を濃い状態、すなわちガソリンを多めに噴射する必要があります。
つまり必然的に余分にガソリンを供給することになるので燃費が悪化してしまうわけです。

●「フェニックス計画」による燃費改善

オイルショックを契機にロータリーエンジンの燃費の悪さがクローズアップされ、東洋工業の勢いは完全に止まりました。
この逆境を乗り越えるべく、1974(昭和49)年1月に松田耕平社長は記者会見を開き、社運を賭けた「フェニックス計画」を発表しました。なんと、ロータリーエンジンの燃費を40%改善するという、無謀とも思える目標でした。
技術陣は「技術で叩かれたものは、技術で返す」を合言葉に、「ロータリースピリット」で燃費改善に取り組みました。

対策としてまず行ったのは、ガスシール性の向上にサーマルリアクターの反応性の向上、そして2次空気噴射制御の改善でした。ここで20%改善。次はエンジン本体や排ガス浄化システムの改善、さらに低速トルクを向上させて最終減速比を変更することにより、最終的には目標の40%を見事達成することができました。
これらの手を施すことで同クラスのレシプロエンジン車と同等の燃費性能となり、ロータリー存亡の危機を乗り越えることができたのです。

(Mr.ソラン)

第19回につづく。


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第5章・排ガス規制とオイルショック(ロータリーの歴史2)

その1.北米進出とサーマルリアクター【2020年7月16日公開】
その2.マスキー法から始まった排ガス規制とオイルショック【2020年7月17日公開】

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