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■代表的な試験は、高温試験と低温試験、低圧試験
●現地での実車試験に比べると開発効率の向上とコスト低減が可能
クルマには、世界中のさまざまな地域の気象条件でも思い通りの快適な運転ができることが求められます。そのため、現地試験の代わりに、気温や湿度、高度による気圧差などの環境条件を精度良く再現する環境適応試験設備を利用した試験が行われます。
代表的な環境適応試験である高温試験と低温試験、低圧試験について、解説していきます。
●高温試験とは
高温試験は、対象車の仕向け地のさまざまな高温状態を想定して、高温環境試験室で行います。
世界の最高温度までカバーするため、一般的な高温環境試験室は室内の最高温度を75℃程度まで上昇させる設備能力を有しています。また、湿度も一般には30~90%に設定可能です。
その他、各部品の昇温状況や乗員の温熱感覚を試験する日射装置や、路面からの照り返しを再現する路面輻射装置、また実車の走行試験を再現するため、シャシーダイナモを装備している高温試験室もあります。
高温試験室で実施される代表的な試験としては、以下があります。
・冷却性能試験
高温条件下でのシステムや部品の放熱性能、冷却性能を評価します。特にエンジンやトランスミッションの冷却性能の評価は重要です。
・熱害性試験
高速走行や渋滞走行、登坂走行、およびアイドル時、キーOFFでの放置など、温度上昇が厳しい条件で部品の耐熱性評価を行います。
・空調性能試験
空調作動時の車室内の温度と湿度のコントロール状況、快適性を評価します。
・ドライバビリティ試験
高温条件下では、エンジンが不安定になりやすく出力も低下するので、発進性や加速性などの走行性能、再始動性を評価します。
●低温試験とは
低温時の試験は、高温試験室と同様さまざまな低温状態を想定した試験ができる低温環境試験室で実施します。
一般的な低温試験室は、世界の最低温度を想定して試験室温度-50℃まで下げられる能力を持っており、湿度管理は行いません。その他、降雨や風雪を再現する装置や実車走行試験を再現するためシャシーダイナモを装備している低温室もあります。
低温試験室で実施される代表的な試験としては、以下があります。
・始動性能試験
極寒地でもっとも問題となるエンジンの低温始動性を評価します。低温始動性に影響するバッテリーやスターターの仕様選定やエンジンのキャリブレーションを行います。
・ドライバビリティ試験
始動後、走行時にエンジンがスムーズに吹き上がるか、加速するかなどを評価します。始動性と同様、低温時は燃料が気化しづらいので加速性が悪化しやすくなります。
・空調性能試験
空調作動時の車室内の温度と湿度のコントロール状況、快適性を評価します。ヒーター使用時は、ウィンドウガラスの曇りが問題なることが多いので、ヒーターやデフロスタ、デミスタの能力を確認します。
・その他
風雪や降雨、霧発生装置とシャシーダイナモを組み合わせて、高低温の悪天候条件での走行を再現できる設備も登場しています。温度だけでなく、風雪のエンジンルームへの侵入、車体各部への雨雪の付着、ワイパー性能や視界性の確認などの試験ができます。
●低圧試験とは
高地では、気圧が下がり酸素濃度が減少するため、エンジンの出力は低下し走行性能が悪化します。
低圧環境試験室は、高地での走行を想定して試験室の気圧を自在に下げることができます。仕向け地の海抜最高地域でもスムーズな走行ができるように、エンジンの高地用キャリブレーションを行います。
メーカーは、最終的には実際に仕向け地にクルマを輸送して現地で実車試験を行いますが、頻繁にはできません。そこで活用されるのが、この環境適応試験設備です。
環境適応試験は、現地での実車試験に比べて再現性が高い、条件設定が容易、データの取得と解析が容易という大きなメリットがあり、開発効率の向上とコスト低減に大きく貢献します。
(Mr.ソラン)