【第15回・2020年7月15日公開】
ロータリーエンジン車のすばらしさをアピールするため、東洋工業は、量産初のロータリーエンジン車「コスモスポーツ」の後も続々と新しいモデルを市場投入しました。
1968(昭和43)年に「ファミリア」で大衆車市場に、1969(昭和44)年に「ルーチェ」で高級車市場に、1970(昭和45)年に「カペラ」で中級車市場に、1971(昭和46)年に「サバンナ」でスポーツ車市場へと、フルラインナップ攻勢をかけました。
その結果、ロータリーエンジンの生産が間に合わないほどの人気を得て、東洋工業はロータリーエンジン車の量産化に唯一成功したメーカーとして、歴史にその名を刻むことになりました。
第4章 世界初のロータリーエンジン量産化(ロータリーの歴史1)
その5.ロータリーエンジンの本格普及を目指して
●「ファミリアシリーズ」で大衆車に進出
ロータリーエンジンの本格的な普及の役目は、大衆車の「ファミリアシリーズ」に任されました。
1968(昭和43)年7月に、まずコスモスポーツと同じ10Aエンジンを搭載した「ファミリアロータリークーペ」を発売。ただし大衆車としての低速性能と経済性を重視し、エンジンの最高出力を110PSから100PSに、最高速度は185km/hから180km/hに抑えました。
また、車両価格を70万円という、コスモスポーツの約半額にして入手しやすい価格設定にしました。
続いて1969(昭和44)年7月には、4ドアセダンの「ファミリアロータリーSS」を発売しました。セダンの居住性と実用性を備えながら、先のロータリークーペと変わらない性能を持つ、バランスの取れた大衆セダンとして人気を博しました。
1970(昭和45)年には、ロータリーエンジンのさらなる普及のために値下げを実施。50万円台で手に入るロータリー車は、多くのファミリー層から絶大な支持を得ました。
●高級乗用車「ルーチェ」
ファミリアでロータリーエンジンの大衆化に成功した東洋工業は、さらなるラインナップ拡充のため、こんどは高級車市場に進出しました。
1969(昭和44)年10月、東洋工業のフラッグシップと位置付けられていたルーチェに、ロータリーエンジンを搭載した「ルーチェロータリークーペ」を発売したのです。
東洋工業初のFFハードトップクーペで、655cc×2ローター、最高出力126PSの13A型ロータリーエンジンを搭載し、最高速度は190km/hを達成しました。
フラッグシップにふさわしい装備も充実させており、当時はまだ普及していなかったエアコンやパワーウィンドウ、パワーステアリング、カーステレオなどが標準装備されました。高速安定性を売りにした高級車でしたが、ロータリークーペの生産期間は3年と短命でした。
●米国で人気を博した「カペラ」
1970(昭和45)年5月には、ファミリアとルーチェの中間に位置するミドルサルーンとして「カペラ」が登場しました。搭載された12Aロータリーエンジンの最高出力は120PS、最高速度は190km/hで同クラスの中では圧倒的な動力性能を誇りました。
高速でスムーズな加速を実現するロータリーエンジンの特性が生かされたモデルで、ハイウェイ走行に向いていたので米国で大ヒットしました。
●スカイランGT-Rを破った「サバンナ」
コスモスポーツに続くロータリーエンジン専用車「サバンナ」は、1971(昭和46)年9月の登場です。
当時サーキットで圧倒的な強さを誇り、レース常勝の日産「スカイラインGT-R」を破ったことで一躍その名が知れ渡りました。
いかついフロントフェイスと力強い動力性能から街の走り屋や暴走族に好まれ、少しばかりヤンチャなイメージのスポーツモデルでした。
一方でロータリーの燃費の悪さが目立ち、10円玉を落しながら走ると揶揄されたモデルでした。
(Mr.ソラン)
第16回につづく。
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