目次
■ディスクやローターの状態、路面状況などが大きく影響
●ブレーキシステムの温度状況、路面の温度や摩擦係数などを管理して試験
ブレーキ(制動)性能は、クルマの誕生以来走行性能の向上とともに強化され、進化してきました。ブレーキ性能は、路面状況やブレーキシステムの状態などによって大きく影響されるので、試験の際には試験条件を管理する必要があります。
クルマの基本性能の中でも重要なブレーキ性能の試験方法について、解説していきます。
●最近のブレーキ技術の動向
ブレーキシステムは、クルマの高性能化とともに、また運転支援や自動運転技術との連携のために急速に進化しています。
ABS(アンチロック・ブレーキシステム)は、ほぼすべてのクルマに装着されています。ABSは、誰でも最大限のブレーキ性能が発揮できるように、運転条件や踏力、ペダル踏み込み速度などを検知してブレーキ力を最適化します。
さらに最近は、ABSの進化版としてTCS(トラクションコントロール)やVSC(横滑り防止装置)があります。TCSは、滑って空転を始めた車輪にブレーキをかけることで空転を抑え、タイヤと路面の摩擦を復活させるシステムです。
また現在装着が義務化されたVSCは、高速走行中のハンドル操作やブレーキ操作によるクルマの横滑りを防止するため、エンジンの出力制御とともに4輪のブレーキを独立制御します。
ブレーキ試験には、単体試験や台上試験もありますが、以下では代表的な実車試験について解説します。
実車試験では、ディスクやローターの状態(温度、摩耗状況)や路面状況(温度、摩擦係数など)によってブレーキ力が大きく影響されるので、試験の際にはブレーキシステムや路面状況を管理する必要があります。
●ブレーキ停止距離試験とは
最も基本的なブレーキの性能試験は、ブレーキシステムがもつ最大のブレーキ力を停止距離で評価する方法です。ブレーキに求められるのは、ペダルを踏めば即座に安定した姿勢で、安全に停止することです。
・試験方法
試験は、乾燥路面(摩擦係数μ:1.0程度、路面温度35±10℃)と濡れた路面(μ:0.8程度、路面温度27±5℃)それぞれで行います。車速100km/hからブレーキペダルを踏力50Nで素早く踏み込んで停止させて、その時の停止距離と停止姿勢について計測します。
停止距離とは、ブレーキ操作を開始してからクルマが停止するまでの距離で、試験は5回行います。ちなみに、制動距離とはブレーキが効き始めから停止するまでの距離です。
●ブレーキ効力試験
ブレーキ効力は、ブレーキの入力(踏力)と出力(減速度)の関係から、ブレーキの性能を代表させる指標です。ブレーキの効きが良いということは、軽い踏力でブレーキが効いてクルマが減速して、短い距離で停止することを表します。
・試験方法
制動初速度50km/hと100km/hから、クルマの減速度が一定になるようにブレーキをかけ、それに必要なペダル踏力、またはブレーキ液圧を計測します。
●ブレーキフェード試験
ブレーキのフェード現象とは、ブレーキ操作を繰り返すしたり連続使用することで、ブレーキパッド(ドラムブレーキではシュー)とローター(同じくドラム)の温度が上昇して摩擦材が分解されてガス化します。ガス化した摩擦材がローターとパッド間に入り込むと、両者の摩擦力が低下してブレーキ力が低下。こうして制動力が下がるのがフェード現象です。
熱が逃げにくいドラムブレーキで多く発生することが多いとされますが、ディスクブレーキでも起きます。大型トラックやバスが長い下り坂でエンジンブレーキを使用せず、フットブレーキを多用した場合に起きるパターンがよく知られています。
フェード試験は、ブレーキを繰り返しパッド温度とブレーキの効きを計測する試験です。
・試験方法
公称最高速度の80%と40%から算出される制動初速度(=√[(0.8×Vmax)2 – (0.8×Vmax)2])から、制動間隔640mで制動を10回行い、制動回数ごとのペダル踏力を計測します。
フェード率 = (最大踏力-初期踏力) / 初回踏力 × 100 (%)
クルマは、すぐに「止まる」ことができなければ、「走る」および「曲がる」ことはできません。
ブレーキ性能に必要なのは、止まりたい時に即座に安全に止まることですが、耐久性は当然のこと振動や騒音(鳴き)なども重要な評価項目です。
(Mr.ソラン)