エンジンの台上燃費試験とは?動力計を使いさまざまな条件下でのエンジン単体燃費を計測【自動車用語辞典:パワートレイン系の試験編】

■運転条件などが規定された試験標準に基づき、動力計が設置された試験室で実施

●基本的な燃費を示す燃費率(g/PS・h)は、単位出力あたりに1時間で消費される燃料質量

エンジンの燃費がクルマの燃費性能を決めると言っても過言ではありません。そのため、さまざまなエンジンの台上試験を通して、エンジン単体の燃費性能の改良が行われます。

クルマの燃費向上のベースとなるエンジンの燃費試験と適合試験について、解説していきます。

エンジン性能曲線
エンジン性能曲線

●エンジンの全域燃費率マップ

エンジンの台上燃費試験でもっとも一般的なのは、エンジン回転と負荷の全域で燃費率を計測する全域燃費率(マップ)の計測です。

全域燃費率マップは、燃費の最良値や全域の燃費が表示されるので、そのエンジンの燃費ポテンシャルが分かります。

燃費率の単位は(g/kW・hまたはg/PS・h)で、単位出力あたりに1時間で消費される燃料質量です。これはエンジンの仕様に関わらず直接比較できる燃費指標であり、値が小さいほど熱効率が高いエンジンであることを示しています。

またエンジンをクルマに搭載する前に、この燃費率マップを使ったシミュレーションによってクルマの燃費性能や走行性能などを推定できます。

●エンジンの燃費の計測方法

エンジンの単体燃費の試験は、エンジン試験室のエンジンダイナモメーター(動力計)を使って行われます。ダイナモメーターでは、エンジンのトルクと出力を計測しますが、同時にそのときの燃費を燃料流量計で計測します。

試験では、エンジンにかける負荷を無負荷(アイドル状態)から、部分負荷(スロットルが部分開状態)、全負荷(スロットルが全開状態)までスロットル開度を徐々(一定開度ごと)に開いて、エンジン回転速度500rpmごとに燃費率を計測します。

計測した燃費率のすべての結果を、横軸にエンジン回転速度、縦軸にエンジン負荷としたグラフ上にプロットし、燃費率を等高線で示したマップ図で表示します。

もっとも燃費率が良い(小さい)領域は、「燃費の目玉」と呼ばれ、通常はエンジン回転速度2000~3000rpmで、全開負荷に近い高負荷の運転領域が目玉になります。

燃費率マップと計測法
燃費率マップと計測法

●エンジンの適合(キャリブレーション)試験

エンジンの燃費率マップを作成するためには、あらかじめエンジンの適合試験を済ませておく必要があります。

エンジンの適合試験とは、エンジンキャリブレーションとも呼ばれ、クルマにエンジンを搭載する際に燃費だけでなく、出力や排出ガスなどが目標値になるように、各種のエンジン制御パラメータをエンジン回転と負荷に応じて最適値に設定する試験です。

制御パラメータとは、スロットル開度や燃料噴射量、点火時期、EGR導入量などです。VVT(可変バルブタイミング)機構付きであればバルブ開閉時期が制御対象に加わります。

最新のエンジンは、低燃費化のため制御パラメータが増え、適合作業は複雑化しています。

多くの制御パラメータはお互いに影響を与えるので、トレードオフを考慮しながら最適値を求める適合試験には、膨大な工数と時間を要します。

最近は、実験計画法と呼ばれる制御パラメータ最適化手法によって、適合試験の回数を大幅に削減しています。さらに、MBC(Model Based Calibration)ツールを利用して自動で最適値を求める適合システムが一般的に活用されています。


シミュレーション技術が進み、エンジンの単体燃費からクルマの燃費や走行性能などを精度良く推定できるようになりました。

クルマの動力源はエンジンなので、エンジンの開発段階で適合試験や確認試験、信頼性試験などを抜け目なく確実に行うことが、その後のクルマの開発をスムーズにすることになります。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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