■2019年シーズンはターボチャージャーのアドバンテージが出やすい高地で強かったホンダF1パワーユニット
新型コロナウイルス(COVID-19)の影響で開幕戦が突如中止となったF1ですが、7月3日の開幕がいよいよ迫ってきました。今季のF1といえば、昨シーズンついに復帰後初勝利をあげたホンダF1パワーユニットが、どこまで王者メルセデスに迫るかが注目ですが、そうしたファンの期待に応えるように、ホンダがメディア向けにオンライン説明会を開催しました。
プレゼンテーターは本田技術研究所HRD Sakuraセンター長 兼 F1プロジェクトLPL(ラージプロジェクトリーダー≒開発責任者)の浅木泰昭さん。1500馬力にも達したというホンダの第二期F1エンジンの開発にかかわったのち、市販車においても初代オデッセイや初代N-BOXという歴史を変えたモデル開発に携わってきたという、まさにホンダがF1をやっている意義を体現しているような人物です。
ホンダのような大メーカーがF1に参戦する意義というのは、大きく2つあります。ひとつはブランドイメージ向上、もうひとつが技術者の育成です。もっとも、復帰後マクラーレン・ホンダでのF1参戦時期については『お金を使ってブランドイメージを落としている』と浅木さんが言うように、けっして喜ばしい状況ではありませんでした。そろそろ引き際を考えていたという浅木さんは、そうした状況を打破すべく、商品開発担当の執行役員からHRD Sakuraのセンター長になったということです。なぜならF1に参戦するだけでなく勝たなければ意味がないと考えているからです。『エンジニアを育成するにしても世界一になったという自信を植え付けることがF1などレースに参戦する意義です』と浅木さんはプレゼンテーションで語りました。
ちなみに2019年シーズンではホンダのパワーユニットを積むレッドブル・レーシングは3勝(オーストリア、ドイツ、ブラジル)をあげていますが、とくに『ブラジルではメルセデスのパワーユニットと対等に戦えた』と浅木さんは振り返ります。その理由について『標高が高いところになるとホンダが強くなるということはターボチャージャーにアドバンテージがあると考えています』と説明してくれました。
そして『2020年こそ、メルセデスやフェラーリに追い付き、どこが勝ってもおかしくないという状況にするのが目標。もちろん狙うのはシリーズ優勝(に貢献すること)です』と自信たっぷりにアピールしました。
さて、メーカーがF1に参戦するとなると「走る実験室」といった表現をして、F1テクノロジーのフィードバックを期待するファンも少なくありません。実際、メルセデスAMGはF1のMGU-H(熱エネルギー回生システム)テクノロジーを市販車に展開、電気式ターボチャージャーの開発が順調に進んでいることをアナウンスしています。
では、ターボチャージャーにアドバンテージがあるというホンダも、市販車のターボエンジンに何らかのフィードバックがあるのでしょうか。浅木さんは『エンジンでいえば、燃料系でのノウハウは市販車に応用できますし、ターボチャージャーそのもののF1での経験が活かせます』といいますが、もっと具体的にフィードバックが進んでいる領域があるといいます。
それが駆動モーターです。
浅木さん曰く『高効率モーターに関する知見については、F1からフィードバックされています。F1と量産がもっとも近いといえます』と教えてくれました。たしかに、現在のF1レギュレーションを見るとエンジンについては最高回転数が15,000rpmで制限され、燃料使用量も決まっていますし、エネルギー回収システムの駆動モーター(MGU-K)にしても最大パワーや最大エネルギー回生は制限されています。しかし、ターボチャージャーと同軸にモーターを置いたMGH-Hについては最高回転数が規定されているだけで、最大エネルギー回生は上限なしとなっています。つまり、ここはライバルに差をつけるポイントであり、また技術革新が進みやすいといえます。そうした技術開発が高効率モーターの量産につながっているということは、F1とはもっとも距離があるようにみえる電気自動車に、F1からのフィードバックが色濃くあるというわけです。
2020年にはホンダからバッテリーEVのブランニューモデル「Honda e」が登場するスケジュールになっています。こうしたモデルにF1テクノロジーと関係性があるとなれば、スポーツ系が好きなユーザーもEVに興味が湧いてくるのではないでしょうか。しかも、Honda eはリア駆動ということですから、走りでもF1の息吹を感じることができるかもしれません。
(自動車コラムニスト・山本晋也)