エンジン燃焼の概説:熱効率の向上には適正な燃焼制御が重要【自動車用語辞典:エンジン燃焼編】

■ガソリンエンジンは点火による予混合燃焼、ディーゼルエンジンは自着火による拡散燃焼

●理想の燃焼は、ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの燃焼の長所を融合した燃焼

エンジンは、燃料と空気の混合気が燃焼する発熱量をピストン運動に変換する熱機関です。ガソリンエンジンは燃焼速度を速めること、ディーゼルエンジンは燃料と空気の混合を促進することが、熱効率向上のポイントです。

ガソリンエンジンとディーゼルエンジンのそれぞれの燃焼形態や燃焼制御技術について、解説していきます。

●予混合燃焼と拡散燃焼

ガソリンエンジンの燃焼は、空気と燃料をあらかじめ混合して混合気状態で燃焼するので「予混合燃焼」と呼ばれます。一方、ディーゼルエンジンの燃焼は、噴射された燃料が蒸発拡散しながら燃焼するので「拡散燃焼」と呼ばれます。

両者の燃焼形態の違いは、使用するガソリンと軽油の性状の違いに起因します。

ガソリンは蒸発しやすく、炎を近づける(火花を飛ばす)と常温でも容易に着火し、軽油は蒸発しにくく、温度を上げるとガソリンよりも低い温度で自着火します。

予混合燃焼と拡散燃焼の違い
予混合燃焼と拡散燃焼の違い
予混合燃焼と拡散燃焼
予混合燃焼と拡散燃焼

●ガソリンエンジンの燃焼速度と熱効率

ガソリンエンジンは、上死点(ピストンがシリンダーの最上位置)で瞬時に燃焼することが理想です。瞬時に燃焼することは現実的ではないので、できるだけ燃焼速度を速くして燃焼期間を短くすることが、熱効率向上につながります。

急速燃焼の手法としては、大別して以下の2つがあります。

・シリンダー内乱れ強化による燃焼の活性化

筒内流動やスキッシュ流などでシリンダー内に乱れを生成し、燃焼を活性化する手法

・火炎伝播到達距離の短縮化

燃焼室のコンパクト化や2点点火プラグ方式によって火炎伝播の到達距離を短くし、燃焼期間を短縮する手法

燃焼速度の影響
燃焼速度の影響
筒内流動
筒内流動

●ディーゼルエンジンの燃焼制御

コモンレール噴射システムの出現によって、ディーゼルエンジンは大きく進化しました。噴射圧の高圧化とともに、多段噴射によって燃焼を自在に制御できることが最大のメリットです。

噴射を複数回に分割して噴射する多段(マルチ)噴射によって、ディーゼルエンジンの課題であった排出ガスと燃焼音を同時に低減できるようになりました。

噴射パターンは、運転条件に応じて使い分けます。典型的な多段噴射は、主噴射の前のパイロット噴射とプレ噴射、主噴射の後のアフター噴射とポスト噴射の計5回噴射です。

高圧噴射弁と多段噴射
高圧噴射弁と多段噴射

●リーンバーンエンジンとHCCIエンジン

リーンバーンとは、空燃比が理論空燃比14.7よりも大きい、すなわち燃料が少ない(薄い)混合気の燃焼です。実際には、空燃比が約20以上の燃焼をリーンバーンと呼びます。過去には、直噴エンジンでリーンバーンを実用化した事例がありますが、いずれも耐久性などに問題があり、市場から撤退しました。

しかし、現在もリーンバーンは燃費向上の有力な手段のひとつと位置付けられ、さまざまな研究が行われ、いくつかのコンセプトが提案されています。その中で最も有望なのは、HCCI(予混合圧縮着火)エンジンです。

HCCIは、ガソリンの予混合気をディーゼルエンジンのように自着火させる燃焼方式です。実現できれば、部分負荷領域ではNOxがほとんど発生しないほどの超リーンバーン(空燃比で30以上)で運転でき、大幅な燃費向上が実現できる可能性があります。


ガソリンエンジンとディーゼルエンジンの燃焼形態は大きく異なりますが、重要なことは空気と燃料の混合を促進すること、着火を確実に安定させることです。

本章では、エンジン技術の肝であるさまざまな燃焼制御手法について、個々に紹介します。

(Mr.ソラン)

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この記事の著者

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Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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