燃焼速度を速める手法とは?シリンダー内流動の強化が有効【自動車用語辞典:エンジン燃焼編】

■燃焼速度が遅くなるリーンバーンや高EGRなど低燃費技術には、燃焼速度を速める手法が必要

●コンパクトな燃焼室や2点点火プラグ方式も、燃焼速度を速めることと同じ効果

エンジンの燃焼速度を上げることは、圧縮比の向上と並ぶ、熱効率を向上させる有効な手法です。特に最近は、燃焼速度が遅くなるリーンバーンや高EGRなどの燃焼技術の採用が進み、燃焼を速める急速燃焼の重要性が高まっています。

燃焼速度を上げて急速燃焼を実現する手法について、解説していきます。

●圧縮比と熱効率

圧縮比とは「シリンダー内の空気または混合気(空気+燃料)が、ピストン上昇によってどれくらい圧縮されるか」の割合を示す指標で、次の計算式で表されます。

圧縮比=(燃焼室容積+排気量)/燃焼室容積

ガソリンエンジンの理論サイクル(オットーサイクル)では、熱効率は以下のように圧縮比と比熱比で表すことができます。

熱効率 = 1- (1/ε)κ-1
(ε:圧縮比、κ:比熱比=低圧比熱/定積比熱、空気の場合は1.4)

圧縮比が高いほどエンジンの熱効率は向上し、燃費と出力が向上します。

圧縮比と熱効率
圧縮比と熱効率

●燃焼速度と熱効率

ガソリンエンジンは、上死点(ピストンがシリンダーの最上位置)で瞬時に燃焼することが理想です。実際には、瞬時に燃焼することは現実的でないので、できるだけ燃焼速度を速くして燃焼期間を短くすることが熱効率向上につながります。

エンジンが発明されて以降、現在も燃焼を速くすることに多くの時間と労力が費やされています。急速燃焼の手法としては、大別して以下の2つがあります。

・シリンダー内乱れ強化による燃焼の活性化

筒内流動やスキッシュ流などによって、シリンダー内に小さな乱れを生成して燃焼を活性化する手法

・火炎伝播到達距離の短縮化

燃焼室のコンパクト化や2点点火プラグ方式などによって、火炎伝播の到達距離を短くして燃焼期間を短縮する手法

●シリンダー内乱れ強化による燃焼の活性化

スワール(横渦)やタンブル(縦渦)といった筒内の旋回流とそれに付随する小さな乱れを強化すれば、燃焼速度を速めることができます。

4弁のガソリンエンジンでは、スワールよりタンブルの方が生成しやすいので、タンブルを強めるように吸気ポートを設計します。ただし、タンブルが強すぎると熱損失が増大して逆に熱効率が低下するので、タンブルの強さはエンジンごとに最適化する必要があります。

また、スキッシュ流を利用した燃焼の活性化手法もあります。

スキッシュ流を発生させるには、ピストン頂面と燃焼室下面に上死点時1~2mm程度の隙間(スキッシュエリア)ができるように設計します。圧縮行程でピストンが上死点に近づくと、スキッシュエリアで混合気がつぶされて燃焼室中央に向かう強い流れが発生します。

この流れによって、燃焼が活性化されます。

筒内流動
筒内流動

●火炎伝播到達距離の短縮化

燃焼火炎は、点火プラグを中心に球状に広がるので、燃焼室をできるだけコンパクトに設計すれば、火炎の到達距離が短くなり燃焼期間が短縮します。

また、ひとつの気筒に点火プラグを2つ装着する2点点火方式も燃焼期間を短縮する手法です。4弁エンジンで点火プラグを2個装着するのは設計的には厳しいですが、古くから採用されている手法です。現在も一部のエンジンで採用されています。

現実的ではありませんが、さらに点火数を増やした多点点火にすれば、大幅に燃焼期間が短縮できます。

2点点火
2点点火

電動化が進む中で内燃機関も負けじと、各社はガソリンエンジンの熱効率向上に取り組んでいます。多くの先進的な技術によって、現時点の最高熱効率は42%まで向上しています。

今後、熱効率45%や50%を目指すシナリオの中でも、燃焼速度を上げる技術、急速燃焼がキーテクノロジーのひとつとして上げられています。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
続きを見る
閉じる