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■彼女のオススメ
「こういうのがいいんじゃない?」
ジープ「ラングラー」に最初に惚れ込んだのは、彼女のほうだった。野性的な感じが彼女のハートを射止めたらしい。
そして彼女は、クルマ選びに悩んでいたボクにラングラーを薦めてきた。本当はもっと小さなクルマでいいと思っていたボクだけれど、あまりにも強くラングラーを推してくる彼女。
根負けしたボク、というか彼女の押しの強さに圧倒されたボクはラングラーを買うことに決めた。
■変わらない尊さ
ラングラーはジープのなかでも特別な存在だ。ルーツは第二次世界大戦中に活躍し「ジープ」という愛称がつけられた小型の万能軍用車で、とにかく丈夫。
本当なのか、それとも単なる都市伝説なのかはわからないけれど、タイヤを1本失っても3輪で走ることができたのだとか。構造がシンプルで修理しやすく、フロントウインドウが前に倒せるのは効率よく重ねて運ぶためのアイデアだという説もある。まさに質実剛健なクルマだ。
2018年末に日本で発売された「JL」型は、ラングラーとしては4世代目となるモデル。
最新のモデルだけど、驚くのは先代と見分けがつかないくらいデザインが変わっていないこと。メルセデス・ベンツの「Gクラス」もそうだけど、こういうクルマは“変わらないこと”が大切なのだろう。その気持ちはよくわかる。
フロントウインドウの傾斜がちょっと強いこと、丸ヘッドライトが特徴的な縦スリットのグリルにめり込んでいること、そしてテールランプがLED化されていること。ボクが新型を見分けるポイントはその3つ。
いっぽうで、ボンネットフードをロックする部品やドアヒンジといった細部まで武骨で、ゴツいドアノブが左右ドアだけでなく車両後部のドアにも使われている(同じドアノブが1台のクルマに5個も付いている!)など、伝統をしっかり守っているのがおもしろい。
■細かいことはいい!?
いっぽうで、惚れ込んだ張本人である彼女にとっては細かいことなんてどうでもいいみたい。たぶん新型と旧型の見分けもついていないだろう。
「やっぱりこの雰囲気だよね。ほかのクルマでは味わえない。」
そういいながら助手席に乗り込み、ドライブに出かけたがる彼女。今日も、遠くへ出かけることにしよう。
こうして彼女のおかげでボクの愛車となったラングラー。でもここだけの話、ボクも結構気に入っている。もしかしたら、彼女よりもボクのほうがクルマに惚れ込んでいるかも。
「ねえ、いま何を考えていたの?」
ふと彼女がそう尋ねてきた。
「いや、ドライブが楽しいなあって……って」と答えるボク。
もちろん、彼女のことも好き。だけどラングラーに乗っているときは、彼女よりもクルマのほうが気になるなんて……ちょっと言えないよね。
なんだか彼女がすべてを見透かしているような顔をしているのは、きっと気のせい……だと思う。(つづく)
(文:工藤貴宏/今回の“彼女”:ちとせよしの/ヘア&メイク:牧 詠子/写真:ダン・アオキ)