クルマへの浸水とは?水かさが30cmを超えたら走行を諦めよう【自動車用語辞典:トラブル編」】

■トラブルは、吸排気系への水進入によるエンジン停止と電気系ショートおよび断線

●水かさが10cmを超えたら、早めに冠水路から脱出して安全な場所に退避すべき

日本は、地理的地形的な条件から水害が多く、台風や豪雨によって道路が冠水することが珍しくありません。冠水路の水かさが増すとエンジンや電気系統のトラブルによって、クルマが正常に動かなくなる、停止する恐れがあります。

クルマが浸水した場合の注意点やリスクについて、解説していきます。

●冠水路走行の危険性

クルマのエンジンや足回りなどは、雨や雪などが侵入しても機能に問題が生じないように設計されています。台風や豪雨、大雪の時に走行しても何の問題も発生しませんが、道路が冠水してエンジンや足回りが浸かるような場合は、不具合のリスクが高まります。

具体的なトラブルとしては、エンジンの吸排気系への水浸入によるエンジン停止や電気系のショートおよび断線によるエンジン停止、ブレーキパッド部への水浸入による制動力低下などです。

冠水道路は走行しないことが重要ですが、走行する場合は浸水深に注意しなければいけません。水面が高いほど、クルマのトラブルの発生リスクが高まります。

・浸水深 10cm以下 :速度を落とせば、ほとんど支障なく走行可能

・浸水深 10~30cm :ブレーキ性能が低下するので、早めに冠水路から安全な道路に移動

・浸水深 30~50cm :エンジンが停止する可能性が高いので早急に冠水路から脱出、脱出できなければ走行を諦めてクルマから脱出

・浸水深 50cm以上 :クルマが流され始め、クルマに閉じ込められる非常事態。ドアが開かなければ、専用ハンマーで窓ガラスを割って脱出

クルマの浸水
クルマの浸水

●エンジンのトラブル

エンジンの吸排気系へ水が浸入すると、エンジンが停止する恐れがあります。

・排気系への水浸入

排気管の出口は、バンパーより低い位置にあり、水かさが増えてくると水が浸入します。

浸入した水が排気管を塞ぐと、エンジンの燃焼ガスが排出され難くなり、エンジンが不安定になりエンストする場合があります。

・吸気系への水浸入

吸気系の空気吸入口は、クルマ前面のラジエーター近傍にあります。ここから、水が浸入するとエンジンに吸入され、エンジンの燃焼が不安定になり、大量だとエンストします。

一旦エンストして水がシリンダの中に溜まった状態で、再始動するとウォーターハンマーによってエンジンが破損する恐れがあります。ウォーターハンマーとは、シリンダ内に多量の水が入ると非圧縮性の水を無理やり圧縮しようとして、コンロッドが曲がってしまう現象です。

●電気系のトラブル

クルマの電気系は、水や雪の侵入に対してショートや断線が起きないように注意深く設計されていますが、多量の水に対しては必ずしも万全とは言えません。もし配線の断線やショートが起こっても、クルマの本来の機能は低下しますが、バックアップ機能が働きクルマが突然停止するようなことはほとんどありません。

注意が必要なのは、バッテリ電源のショートです。電源ショートは火花が発生することがあり、燃料系に引火すれば最悪の場合は車両火災になる恐れがあります。

●ブレーキパッドへの水浸入

バレーキパッドに水か掛かると、ディスクとパッド間の摩擦係数が低下するためブレーキ力が低下します。

ブレーキが全く効かなくなるわけではありませんが、冠水路から抜け出た後も車速を上げないようにして様子を見るなど、注意しないと危険です。


冠水した道路は走行しないことが重要ですが、突発的に巻き込まれた場合には人命にかかわる場合もあるので、適切に対応しなければいけません。

水かさが約10cmを超えるような場合は、クルマの速度を落として早めに冠水路から脱出すること、30cmを超えたときには無理せず走行を諦めてクルマから脱出するのが安全です。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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