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■日本市場のクルマは、バッテリが正常なら−30℃程度までは始動可能
●バッテリ電圧は、温度の低下とともに下がるので冬季は始動しづらくなる
寒冷地では、真冬にエンジンが始動できない不具合が散発します。エンジン制御の不具合が原因の場合もありますが、多くはバッテリの弱った古いクルマで発生します。
なぜ気温が低いと始動しにくいのか、バッテリの影響を受けやすいのか、解説していきます。
●低温始動時のエンジン制御と不具合
ガソリンエンジンでは、吸入空気量に見合った燃料をシリンダー内に供給して、適正な時期に火花点火をして混合気を燃焼させて始動させます。
低温時のエンジン制御の基本は、冷却水温度に応じて適正な燃料量を供給することであり、具体的には低水温では燃料量を増量します。気温が低いと燃料が気化しづらくなるので、その分過剰に燃料を供給する必要があるからです。
水温センサーの故障や断線が起こると、適正な燃料増量や点火時期制御がされないので、始動性の悪化や始動できないトラブルが発生します。この場合は、エンジン警告灯が点灯するのでサービスで点検すれば解決します。
●低温時に始動性が悪化する理由
どんなエンジンでも、気温が下がれば始動性は悪化します。悪化する理由は、以下の3つがあります。
・燃料の気化性悪化
シリンダー内では、燃料の気化成分と空気が適正な空燃比(混合比)を形成して燃焼します。したがって、気化成分が少ない低温時には空燃比が薄くなり着火しづらくなります。それを見越して制御で燃料を増量しますが、それでも低温では着火性が悪化し、始動性が悪化します。
・バッテリ電圧が低下
バッテリは、温度が下がると内部抵抗が上昇して、作動電圧と容量が低下します。結果として、スターター電圧が下がるので始動時のクランキング回転数が低下します。
・エンジンオイル粘度が上昇してフリクションが増大
エンジンオイルは、温度の低下とともに粘度が上昇します。粘度が上がると、エンジン摺動部のフリクションが増大するため始動時のクランキング回転が低下します。
低温時には、バッテリ電圧の低下に加えてフリクション増大がクランキング回転の低下を招きます。
クランキング回転は常温で100rpm(回転/分)以上ありますが、極寒時には50rpmを下回ることもあります。クランキング回転が下がると、ピストン圧縮時に圧縮漏れや熱損失が増大するため、混合気の圧縮温度が下がりより着火し難くなります。
上記のような低温時の不利な特性に加えて、バッテリ自身が劣化していると始動できないという不具合が発生します。
●バッテリの劣化
バッテリは、使用不使用に関わらず、内部抵抗が増大して経年劣化が進みます。特に劣化しやすい条件は、チョイ乗り、長期放置、長距離走行の場合です。
チョイ乗りは電池が十分暖まらないため充電不足が続く、長期放置はキーオフでも暗電流によって放電状態が続く、長距離走行は充電され続けて高温過充電状態が続く、ことが劣化を促進します。
常温で問題なく始動できても、低温時にクランキングがクークーと苦しそうに回転する、始動に時間がかかるような症状が現れた場合は、バッテリの劣化が進んでいると判断できます。
スターターの不具合の可能性もありますが、その場合は常温でも同じように不調になります。
クルマの低温始動性はエンジンの仕様にもよりますが、一般的には始動時間(クランキング時間)が延びながらも-30℃程度まで確保されています。常温では劣化の判断は難しいですが、低温になれば始動性の悪化が顕著になり、分かりやすくなります。
バッテリ交換の目安は一般的な使用では3~4年ですが、低温時に始動時間が延びてきたと感じたら点検してください。
(Mr.ソラン)