初代シティに通じる新型の存在感!走りはファミリー志向へ変身したが本質は不変(諸星陽一)【ホンダ・フィット試乗】

■新型はスポーティなイメージとは正反対の方向へキャラチェンジ!

●思い切ったパッケージングを採用した初代シティの思想を継承

多くの人はホンダのクルマは「スポーティで楽しい」というイメージを持っているでしょう。私も同じようなイメージを抱いています。しかし、今回登場した新型のフィットは従来のフィットが持っていたスポーティなイメージとは正反対の方向性を持ったクルマとして登場しました。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのフロントビュー
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのフロントビュー

フィットは今回登場した新型で4代目となります。2代目、3代目モデルにはスポーティモデルのRSを設定するなど、積極的にスポーティさをアピールしてきました。フィットのルーツを探ると、そのルーツがシティというコンパクトハッチバックであったことがわかります。シティ(国内モデル)は2代にわたり作られましたが、初代はとくにインパクトにあふれたクルマでした。初代シティは非常に大きなガラス面積が与えられたルーミー(かつてガラス面積の大きなモデルはこう表現された)なスタイリングを持っていました。シティはこの時代のクルマのシルエットとはまるで異なるデザインで「トールボーイ」という愛称も与えられました。

ホンダ初代シティ
ホンダ初代シティ
ホンダ2代目シティ
ホンダ2代目シティ

初代シティはその思い切ったパッケージングから多くのファンを獲得し、一時代を築いたモデルでしたが、2代目でパッケージングを大変更し、初代とは違うクルマになりました。しかし、この新型フィットをじっくり観察するとあの時代の初代シティに感じるものがあるのです。それは、今までの発想とはまるで異なる斬新なパッケージングを採用し、そのパッケージングによって新たな価値観が得られるようになるというのが大きな理由といえます。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのリヤビュー
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのリヤビュー

●Aピラーの新構造により前方視界を大幅に拡大

新型フィットの最大の特徴はフロントウインドウまわりの構造にあります。従来はもっとも前側にあるAピラーが車体の構造物となり衝突時のエネルギーを受け止めるとともに、フロントウインドウの窓枠を兼ねていました。新型フィットは構造物としてのAピラーと窓枠としてのAピラーを分離しました。新型フィットの場合、もっとも前方にあるのが窓枠としてピラー、その後方にあるのが構造物としてのピラーとなります。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのインパネ
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのインパネ
視界の比較
右が新型フィット、左が先代フィット

●ハイブリッドはモーター走行が基本。加速は十分力強い

試乗車は1.3リットル自然吸気エンジンを搭載するNESSと、1.5リットルエンジンを組み合わせたハイブリッドシステムを採用するe:HEV LUXEの2タイプです。パワートレインとして優れているのはハイブリッドのほうです。ハイブリッド車の駆動は基本がモーターで、高速道路などではエンジンが駆動を担当します。プリウスなどのようにモーターとエンジンを併用するような走行モードはありません。発進はモーターのみでアクセル操作を緩やかに行っているとエンジンは始動せずそのままモーターのみで加速をします。この際の加速感も十分に力強いもので、モーター駆動のいい部分を感じることができます。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのエンジン
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのエンジン

アクセルを強く踏むと、さらにおもしろい加速感を味わえます。新型フィットのハイブリッドシステムには機械的な変速機構はないのですが、制御によってステップ変速を与えて普通のATのような変速感を与えています。私はCVTはCVTらしい無段階変速こそ正しいものだと思っているのですが、ステップ変速のほうが気持ちよく感じる人が多くいるのもまた事実。その多くの人たちを満足させているのですから、このセッティングもまた正しいといえるのでしょう。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEの走り
ホンダ・フィット e:HEV LUXEの走り

●ホンダらしい走りが味わえる1.3リットルエンジン

さて、もう一方のピュアエンジンです。フィットのピュアエンジンは1.3リットルの4気筒で一般的なCVTが組み合わされます。こちらのCVTもステップ変速が組み込まれています。絶対的なパワー、トルクではハイブリッドに叶いません。ハイブリッドと35万円程度の価格差があるのですからパワーやトルクに差があるのは当たり前といえます。しかし、この1.3リットルはかなりよくできたエンジンで、回して走るとけっこう気持ちのいい走りができます。ハイブリッドよりもホンダらしい走りと言ってもいいでしょう。しっかりと回るエンジンと、それとシンクロする速度の関係はホンダフィーリングそのものという印象です。

ホンダ・フィット NESSのエンジン
ホンダ・フィット NESSのエンジン

●安心感と安定感のあるハンドリングは好印象

ハンドリングは正確でコーナリングを気持ちよくこなすことができます。この部分の味付けのうまさはさすがホンダというイメージがあります。先代、先々代に設定されたRSのようにシャープでスポーティなハンドリングではありませんが、ステアリングの切り始めからねらった転舵量までの曲がり方と手応えが一定で、安心してクルマを操ることができます。その動きはファミリーとしての要素をしっかりと押さえたもので、ゆったりとした乗り心地と動きを確保しているのです。ロールはそれなりにありますが不安感はありません。

ホンダ・フィット NESSの走り
ホンダ・フィット NESSの走り

●大きなフロントウインドウが運転時の戸惑いの原因に

しかし、新型フィットには特徴的な運転のしづらさが存在します。それはかつてないほどの大きくなったフロントウインドウの配置とその大きさにあります。新型フィットはボディサイズは5ナンバーに収まりますが、見た目はかなり大きく感じます。ドライバーズシートに乗ってみるとその印象はさらに強まり、とても大きなクルマに感じるのです。とくに左前の状況がつかみにくく、一瞬戸惑いを感じます。しかし、この問題は、かなりの調整量があるシートリフターを思い切り上まで上げると、見切りがよくなり取り回しは改善されます。しかし、視線も乗車位置も高くなるのでロール感に対する感度はアップするところがちょっと困りものです。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのサイドビュー
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのサイドビュー
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのフロントシート
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのフロントシート

●走りの方向性は変わったが、これぞフィットと言える新型

フィットはパッケージングで大成功したモデルといえます。そして、そうしたパッケージングこそクルマにとってもっとも大切なものだと私は考えます。スーパーセブンのようなスポーツカーならいざ知らず普通のクルマならば、人が乗れなければ仕方ないし、荷物が積めなければ仕方ない…そうした基本的な性能を高めることができたセンタータンクレイアウトによって、観葉植物などの背の高い荷物をリヤシートをチップアップした場所に搭載できることなどを可能にしています。

ホンダ・フィット e:HEV LUXEのリヤシート
ホンダ・フィット e:HEV LUXEのリヤシート
ホンダ・フィットのチップアップシート
ホンダ・フィットのシートアレンジ(トールモード)

もともとしっかりした実用性を備えるパッケージングを採用し、その上に走りの要素を組み込んできたのがフィットです。今回のモデルチェンジで、走りの方向性がスポーツからファミリーに変更になりましたが、正確に走らせるというホンダらしい考え方は消えていません。しっかり人が乗れて、しっかり荷物が積めて、そしてしっかり走る…それがフィットなのです。

ホンダ・フィット NESSの走り
ホンダ・フィット NESSの走り

「ホンダ フィット e:HEV LUXE」諸元表
全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1200kg
エンジン
・種類:直列4気筒
・総排気量:1496cc
・最高出力:98ps(72kW)/5600-6400rpm
・最大トルク:127Nm(13.0kgm)/3500-8000rpm
モーター
・最高出力:109ps(80kW)
・最大トルク:127Nm(13.0kgm)
駆動用バッテリー
・容量:-Ah
駆動方式:FF
トランスミッション:電気式無段変速機
燃費:27.4km/L(WLTCモード)
価格:245万9600円

「ホンダ フィット NESS」諸元表
全長×全幅×全高:3995×1695×1540mm
ホイールベース:2530mm
車両重量:1090kg
エンジン
・種類:直列4気筒
・総排気量:1317cc
・最高出力:98ps(72kW)/6000rpm
・最大トルク:118Nm(12.0kgm)/5000rpm
駆動方式:FF
トランスミッション:CVT
燃費:19.6km/L(WLTCモード)
価格:196万5700円

諸星陽一
諸星陽一さん

諸星陽一:モーターフォトジャーナリスト。自動車雑誌の編集者を経て、フリーランスに。プロダクションレースの参戦経験のほか、メンテナンス系の記事も得意とするなど守備範囲の広さは全盛期のイチロー並み。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員も務める。

(写真:奥隅圭之、文:諸星陽一)

この記事の著者

諸星陽一 近影

諸星陽一

1963年東京生まれ。23歳で自動車雑誌の編集部員となるが、その後すぐにフリーランスに転身。29歳より7年間、自費で富士フレッシュマンレース(サバンナRX-7・FC3Sクラス)に参戦。
乗って、感じて、撮って、書くことを基本に自分の意見や理想も大事にするが、読者の立場も十分に考慮した評価を行うことをモットーとする。理想の車生活は、2柱リフトのあるガレージに、ロータス時代のスーパー7かサバンナRX-7(FC3S)とPHV、シティコミューター的EVの3台を持つことだが…。
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