電気自動車にCO2削減効果がなかったとしても世界がEVを求めるわけ【週刊クルマのミライ】

■電気自動車にCO2排出減効果がないという主張もあるが、大気汚染の観点から世界はゼロエミッションを求める

電気自動車(EV)や燃料電池車(FCV)といった排ガスを出さないクルマのことをゼロエミッションビークル(ZEV)といいます。最大のメリットは走行中のCO2排出がゼロになることで、地球温暖化(気候変動)へ対応するモビリティとして次世代の主役になると主張するメーカーは少なくありません。

一方で、電気にしろ水素にしろ、それらは二次エネルギーといえるものですから、発電や水素製造の段階ではCO2排出はゼロではありません。再生可能エネルギーによる発電においても、発電設備の製造時にCO2排出をゼロにしなければ、すべての面でゼロエミッションとはいえないのです。

まして、日本においては発電の中心を火力が担っています。もし、すべてのエンジン車を電気自動車に置き換えたとしても火力発電に依存したままでは CO2 排出量削減にはつながらないというシミュレーション結果もあります。

運輸部門における二酸化炭素排出量
運輸部門における二酸化炭素排出量(国土交通省・2017年度発表)出典 https://www.mlit.go.jp/sogoseisaku/environment/sosei_environment_tk_000007.html

そもそも、日本におけるCO2排出量において、乗用車の占める割合は8.2%に過ぎません(国土交通省資料より)。仮に乗用車がすべてZEVになったとしても自動車部門だけで社会全体のCO2排出量を大幅に減らすことはできないのです。あらゆるカテゴリーでCO2排出量を削減する必要があります。

こうした事実を自動車メーカーが知らないわけではありません。しかし、多くのメーカーはZEVを次世代モビリティに欠かせない要素として考えています。それはなぜでしょうか。

CO2排出量だけでなく大気汚染という社会的課題があるからです。日本ではディーゼル規制が厳しくなるタイミングが早かったため、あまり実感できませんが、欧州や中国ではCOVID-19(新型コロナウイルス)による外出制限により都市部の大気汚染が改善したというニュースもあります。

地球温暖化対策はすぐに効果は出づらいのですが、こと都市部の大気汚染についてはエンジン車の運用を少し減らしただけ比較的早い時期に効果が実感できるのです。排ガスを出さないクルマが多数派になれば、かなりの大気汚染が解決・軽減できるといえます。

All-New Mustang Mach-E
フォードの伝統的なスポーツカー「Mustang」にも「 Mach-E 」という名前の電動車両が生まれている。あらゆるカテゴリーでゼロエミッション化は進んでいる

都市部の大気汚染については欧州・アジアと広いエリアで問題となっています。CO2排出量についてはEVだけで解決できる問題ではないとしても、都市部の大気汚染では自動車部門が貢献できる範囲は広いといえます。世界中の自動車メーカーがZEVを中心としてリリースしていけば、こうした大気汚染の改善効果というのも目に見えてくることでしょう。当然、ユーザーはクリーン化を歓迎するでしょう。ZEVの普及を求める市場マインドは大きく成長していくと考えられるわけです。

つまり、次世代モビリティとしてはZEVであることは絶対条件になると予想されます。コストやインフラの課題からすぐに全部がZEVに入れ替わるというわけにはいかないでしょうし、そうした課題がどのくらいのスパンで解決できるかは明言できません。しかし、将来の方向としては明らかにZEVに向かうと予想するのが妥当です。

現時点で、メーカーによりZEVへかけるリソースの割合は異なって見えますが、それは課題が解決して市場ニーズがZEVに向かうタイミングの読み違いによるものであって、未来永劫エンジン車で対応できると考えている自動車メーカーなど存在しないでしょう。

(自動車コラムニスト 山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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