■発電用エンジンに二輪部門の知見を入れようという動きがあったらしい……
ホンダから登場した新型フィットの評判が上々です。そのコンセプトは「用の美・スモール」というもので、わかりやすく表現すると「心地よさ」を基準に開発されたコンパクトカーです。
だからといってオーソドックスな作りというわけではありません。ハイブリッドシステムは2モータータイプに一新されていますし、メーターにしても7インチディスプレイを利用したタイプとなっています。とはいえ、いかにもデジタルメーター! といったテイストではなく、どこか温かみがあって、なおかつ読みやすい表示となっていました。
このメーターを初めて見たときに思い出したのは二輪のメーターです。最近の二輪では原付クラスから大型車まで液晶メーターが増えています。ホンダでいえばモンキー125もデジタルですし、アフリカツインやCBR1000RR-Rといった大型モデルもフル液晶となっています。つまり、二輪のデザイナーはさまざまなモデルに合わせた最適なデジタルメーターの表現に関するノウハウを有しているといえます。
新型フィットのメーターが、あまりにも見やすいフォントサイズやコントラストだったので「もしかして二輪部門の知見が入っているのですか」とエンジニアの方に質問してみました。結論からいえばメーターに関しては二輪部門とは無関係に進めたということでしたが、「じつは和光(二輪の研究部門がある)と相談したこともあります。それはパワートレインに関してでした」というエピソードを聞くことができました。
新型フィットのハイブリッドシステムは、基本的に1.5Lエンジンが発電を担当、モーターでタイヤを駆動するというシリーズハイブリッドになっています。高速走行時にエンジンがタイヤをダイレクトに駆動するモードがあることでモーター駆動の苦手な領域をカバーしているというのは技術的には肝ですが、開発段階ではもっとシリーズハイブリッド寄り、むしろレンジエクステンダーEV(バッテリーの充電量に応じて発電機を回すタイプのハイブリッドシステム)方向の検討もしたといいます。
BMWのレンジエクステンダーEVであるi3が搭載する発電用エンジンは0.6Lの2気筒エンジンで、これは二輪由来のユニットです。二輪部門を持つ自動車メーカーとしては、レンジエクステンダー寄りのハイブリッドシステムを考えるのであれば二輪用エンジンの採用というのは選択肢として自然にあがるわけです。
フィットハイブリッドに二輪用エンジンを載せることはなく、結果的には従来から実績のある4気筒エンジンを使ったわけですが、開発の過程で検討していたという話を聞くと、夢が膨らみます。二輪用エンジンはコンパクトですから、ホンダ伝統のMM思想(人のスペースを最大にすること)にピッタリなパワートレインを生み出せる可能性が高いからです。
今回、2モーターハイブリッドとしては驚くほどコンパクトにまとめることのできたというのはトピックスのひとつですが、二輪用エンジンの知見が入ることで、もっとコンパクトになってキャビンが広くできることが期待されます。そうした商品性がライバルを圧倒するようなことになれば、二輪と四輪の両部門を持つ数少ないメーカーとしてのブランド力がいっそう高まること請け合いです。
はたして、そうした未来はやってくるのでしょうか。
(自動車コラムニスト・山本晋也)