■ハイブリッドのよさをすべて持つフィットの2モーター方式
2019年の東京モーターショーでワールドプレミアされ、2020年に販売が開始された4代目となる新型フィット。
電動パーキングブレーキの不具合などがあり販売が遅れるなど、出だしはちょっとうまくいかないこともありましたが、発売されてみれば、多くのバックオーダーを抱えるほどの好調ぶりです。
その好調なフィットには1.5リットルガソリンエンジン+モーターのハイブリッドと、1.3リットルピュアエンジンが用意されます。このうち1.5リットルハイブリッドモデルの「e:HEV HOME」の試乗インプレッションをお届けします。
「e:HEV」のシステムはエンジンと2つのモーターを組み合わせたものです。ひとつのモーターは駆動用、もうひとつは発電用なのでモーターと呼ぶよりもジェネレーターと呼んだほうが適切です。
まずはEVモードで走ってみよう……と思ったのですが、新型フィットにはEVモードは存在しませんでした。ハイブリッドなら電気だけでどのように走るか? に興味があったのです。まあしかたないかとクルマを発進させました。
もちろん発進時はエンジンが始動しないEVモードでの発進となります。トルクの発生は発進から素直な印象です。電動車らしく、グッと力強く押し出される感覚でのスタートです。そのまま一般道を走りましたがエンジンは始動しません。
つまりEVモードは存在しませんでしたが、EVとして走らせることはできました。エンジンが始動するまでの粘りはなかなかのもので、ECONをオンとしていたこと、バッテリーの充電容量がしっかりあったこともありますが、エンジン始動が少ないとすごく得をした気になります。
EV走行中にアクセルをゆっくり踏み込み程度ではエンジンが始動しないので、深くまで踏み込んでいくとエンジンが始動します。このときのエンジンの役割は発電で、動力のアシストではありません。エンジンの動力によって発電してよりモーターが力強く働くようにするのです。
先代のフィットはエンジンが主役でモーターがアシストという雰囲気があったのですが、新型の動力源の主役は明らかにモーター。アクセル操作に対するエンジンの始動は細かく制御されいてて、アクセルペダルを速く踏み込んだときもエンジンは始動します。高速道路ゲートに入り、流入に向かってアクセルを踏み込んでいくとエンジンが始動、かなり強い加速感を得ることができます。
高速道路での定常走行となると基本はエンジン走行になります。一般的なハイブリッドの場合はここでエンジンとモーターを併用するのですが、フィットはクラッチによってモーターを切り離してエンジン走行をおこないます。モーターを切り離してしまっているので、エンジンの動力を無駄なく走行に使うことができ、燃費向上に役立つというわけです。この使い分けをおこなったところがフィットのハイブリッドシステムのすごいところです。現状のハイブリッドシステムでは最良の方式といえます。
しかし、こうしたハイテク化はクルマの高額化にも影響を及ぼします。フィットの場合ピュアエンジンモデルと価格を比較するとベーシックグレードで44万円、そのほかのグレードで34万9800円の価格差があります。ノートでもeパワーとピュアエンジンは50万円程度の価格差です。
かつてターボエンジンとNAエンジン、DOHCとOHCで価格差を設けた手法が現在はハイブリッドとピュアエンジンという形で生きている印象です。とはいえ、この「e:HEV」は、ピュアエンジンを大きくリードする性能を持っています。ただ走ればいい……ではないクルマ好きなら心に響くフィーリングを持っているのは間違いないです。
(文・写真/諸星陽一)