欧州系コンパクトは軽量なBEVが主流になる流れが鮮明に!【週刊クルマのミライ】

■バッテリーをたくさん積んで航続距離を稼ぐEVというのは過去の手法になりそうだ

気候変動対策としてのCO2排出量制限、また大気汚染の観点から世界はゼロエミッションビークル(ZEV:排ガスを出さないクルマ)を求めています。それは遠い未来の話ではなりません。イギリス首相が2035年にエンジンを搭載した乗用車の販売を禁止すると発表するなど、いますぐZEVを量産しないと間に合わないという、緊急対応が必要な状況です。

現時点で量産可能なZEVというと、BEV(バッテリーEV、いわゆる電気自動車)が主流となります。BEVの場合、エンジン車に対して満充電での航続距離が満足いくレベルではないということが普及の足かせとなっていました。

ZEVの普及待ったなしといった社会的トレンドの中、航続距離を選ぶのか、環境汚染を選ぶのかという二択が突き付けられています。そうした背景もあってか、欧州ではBEVを選ぶメーカーが増えてきています。

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フルモデルチェンジを発表したFIAT500はバッテリーEVに生まれ変わった

フィアットは、同社のアイコンといえる代表モデルFIAT500をフルモデルチェンジによってBEVとして生まれ変わらせました。また、ホンダも電気自動車専用モデルとしてHonda eを欧州からローンチすると発表しています。

コンパクトカーの場合、バッテリーという高コスト要因があるのでBEVにするのは厳しいという見方もあります。航続距離を伸ばそうとすればバッテリーの搭載量が増えるためコストアップだけでなく車重も増えてしまいますし、ボディも拡大しがちです。バッテリー搭載量を増やすと重くなるので、そのために航続距離が短くなるという「EVのジレンマ」というのは昔からのテーマです。

欧州で相次いで発売がアナウンスされているコンパクトカー系BEVでは、シティカーのニーズは短距離移動がメインと割り切ることで「EVのジレンマ」を解決しています。

ようはバッテリー搭載量を必要最小限として、重量とコストを増やさずに実用的なコンパクト系BEVとして成立させています。モード値で250~300km程度の航続距離が稼げれば十分という割り切りがあります。

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ルノー・トゥインゴのEVは必要十分なバッテリーを積むことで軽さと適切な航続距離を実現

その最たるものがルノー・トゥインゴZ.E.でしょう。こちらは21.3kWhというバッテリー総電力量で、航続距離は180kmと発表されています。そのかわり車両重量は約1.1tというBEVとしては異例の軽さを手に入れています。

日々の生活では一日に30~50kmも走れれば十分というシティカーに、多量のバッテリーを積んで、まるでバッテリーを運んでいるような状態になり、車両価格も上がってしまうのはナンセンス。欧州的な合理性が、こうした好バランスを導き出したといえそうです。

なお、ここでピックアップした3台のバッテリー総電力量と航続距離を整理すると次のようになります。

FIAT500 総電力量42kWh 航続可能距離320km
Honda e 総電力量35.5kWh 航続可能距離220km
ルノー・トゥインゴZ.E. 総電力量21.3kWh 航続可能距離180km

それぞれターゲットは完全に同じではないのでカバーする範囲は異なりますが、むやみに航続距離を求めるのではなく、バッテリー搭載量を最適化して価格や生産性をバランスさせようというマインドが広がっていることが感じられます。

バッテリー搭載量を増やして航続距離を稼ぐという力技は大型車にはまだまだ求められるのでしょうが、一般ユーザーに届くリアルなBEVは、割り切ることでコストを抑える方向に行きそうです。結果として、軽量なボディにハイレスポンス&トルクフルな駆動系を組み合わせたキビキビと走るコンパクトカーが続々と登場する未来が見えてきます。

遠からず「航続距離を気にするのはオールドスタイル」、そんな時代になるのではないでしょうか。

(自動車コラムニスト・山本晋也)

【関連リンク】

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この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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