N-BOX、タント、スペーシア…試乗して分かった、3台の走行性能の違い【比較試乗】

●ボディ形状からくる弱点、一番抑え込めているのはこのクルマだ!

ホンダN-BOX
背が高く、ロールやピッチの動きの大きさは共通した弱点
タント
動くボディを嫌みに感じない動きに抑え込めているのか画重要
スペーシア
ちょっとハンドルを切っただけでグラグラする場合もある。

「軽スーパーハイトワゴンの弱点は、コーナリングだ」と思われがちですが、実は高速直進性の方が致命傷になります。ボディ側面の面積が大きく、またタイヤのグリップレベルが低いため、横風や路面の突起で進路を乱されやすく、ステアリングの修正がしょっちゅう求められるためです。

また、車室内の空間を広くとっているために車体のパネル面積が大きくなっており、そのため、ロードノイズのような音の反響が起きやすい、という弱点もあります。

こうしたボディ形状を採用する限り避けては通れない特徴であり、各メーカーがこれらの弱点に対してどういった対策を打っているかがポイントです。では、3台の比較をしてみましょう。

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■高速直進安定性
■コーナリング
■乗り心地性能
■ロードノイズ
■動力性能

■高速直進安定性 N-BOX…8点/タント…8点/スペーシア…7点

とっさに急ハンドル操作をしても進路が乱れにくくするため、ステアリングのギア比をスローにしたり、高速走行になるほど操舵力を重たくする、といった対策は3台ともできています。

その中でも、比較的高速直進性が良いのはN-BOXです。一般道には、マンホールや道路工事の跡など路面の凹凸がよくありますが、他の2台がそんな路面凹凸で、ボディが大きく揺れる印象があるのに対し、N-BOXはステアリングが左右に少し振られても安定して真っすぐに走ってくれます。

さらに、N-BOXとタントには、アダプティブクルーズコントロールと車線逸脱防止制御が備えられており、高速巡行が安全にできます。しかし、スペーシアは前走車追従ができないクルーズコントロールのみで、かつステアリングアシストもついていません(車線逸脱警報はついています)。スペーシアには先進技術の搭載が必要です。

なお、橋の上など強い横風が吹く道路では、3台ともかなり恐怖を感じました。

ホンダN-BOX
ホンダセンシングが無くても、直進性は高い。
タント
ロールの動きが大きめ。
スぺーシア
こちらもボディの動きは大き目。

■コーナリング N-BOX…8点/タント…7点/スペーシア…7点

コーナリングの速さを競うクルマではありませんが、コーナーでのボディモーションは走行安全性で見落としてはならないポイントです。

まずスペーシアは、おそらくボディ形状を考慮してギア比をかなりスローにしているようです。他の2台よりもステアリングを切る量が多く、急ハンドルになりにくいため、コーナーでボディがグラッとしにくいといった特徴があります。ただ、ややスローすぎるようにも感じます。

タントは、ステアリングの重さは軽すぎず重すぎず、ちょうど良い加減なのですが、若干中立位置がわかりにくいです。また、コーナリング時のロールやピッチもやや大きく感じます。プラットフォームを新世代のDNGAにより磨いた(フロントロールセンター高を下げた)と聞きましたが、ボディモーションを改善する方向にはあまり働いていないように感じます。

N-BOXは中低速(30km/h~60km/h)での操舵力が、他の2台に比べて若干重ためです。手ごたえがしっかり返ってくるので、直進時も走らせやすいですし、コーナーでもステアリングを切り過ぎないため、グラッとすることも少なくすみます。同じくホンダのヴェゼルも低速から手ごたえを出すようなステアリング特性に味付けされており、これが「ホンダの味」なのかもしれません。

安全にコーナーを曲がるという視点では、N-BOXがもっとも良いと思います。

■乗り心地性能 N-BOX…7点/タント…7点/スペーシア…7点

乗り心地の印象は3台にそれほど差はありません。3台ともボディ形状からイメージされるフワフワする乗り心地はなく、上屋の動きを抑え込めているように感じます。

中でも、スペーシアが最もソフトに仕上げられています。路面のギャップや段差を超えた際にサスペンションがきちんとストロークをしており、「ガツン」といった嫌な突き上げもありません。しかし、速度が上がると少し不安を感じる乗り心地となります。

タントもスペーシアと似ており、路面からくる当たりは柔らかく、ソフトな乗り味です。駐車場から車道に出るときの段差をソフトにいなす柔らかい当たりは好印象です。

N-BOXもほぼ同様の印象ですが、突起に当たったときの「音」の印象はとても静かです。ショックの加速度のレベルは同じでもN-XBOXの方が上質に感じます。

背高のボディスタイルによるネガティブな「グラグラ」する性能を、サスペンションのスプリング、ショックアブソーバー、スタビライザー、バンプラバー特性などで抑えようと突き詰めていくと、大まかには同じようなセッティングになっているのだろうと推測できます。

ホンダN-BOX
静かな分、他の2台よりも乗り心地は良く感じた。
タント
当たりが柔らかく、嫌みに感じない。
スペーシア
他の2台に比べると、乗り心地はゆらゆらと揺すられやすい。

■ロードノイズ N-BOX…8点/タント…7点/スペーシア…7点

スペーシア、タントのロードノイズのレベルは、ほぼ同等です。60km/hくらいまでは2台とも静かで、快適な車室内環境です。ただし80km/h以上になると、風の音とロードノイズがやや気になってきます。また、突起を乗り越したときの「ドシンバタン」という音はちょっと残念なところです。

N-BOXは、こうした音の低減に関する磨きこみが素晴らしく良くできています。ロードノイズは他の2台と比較して1ランク静かにできており、中低速から高速まで静かです。また風音や突起乗り越し音も上手に抑え込まれており、音振性能の作りこみのうまさが感じられます。

ホンダエンジニアの方から聞いたのですが、車体の接合技術に欧州車では当たり前に使われている構造用接着剤を適用している部位があるとのこと。こうした技術によって、通常のスポット溶接では出せない質感が生み出せているのかもしれません。

ホンダN-BOX
ロードノイズはN-BOXが最も静か。
タント
ロードノイズは高速走行になるとうるさく感じる
スペーシア
タントと同じような印象。

■動力性能 N-BOX…7点/タント…7点/スペーシア…7点

カタログにあるエンジンスペックは、N-BOXが58ps/6.6kgf、タントが52ps/6.1kgf、スペーシアが52ps/6.1kgfと、違いがありますが、実際に乗り比べてみると明確に体感できるほどの加速の違いは感じられません。

スペーシアは全グレードがマイルドハイブリッド搭載です。発進時や加速時にモーターアシストが入りますので、力強い発進ができます。また、ステアリングホイール上にあるパワースイッチを押すことで、一時的にトルクが上がったような強さを感じます。山道や高速道路での上りなどで大いに役立ってくれるでしょう。

タントにも、CVTのプログラム変更とバッテリーの力も使って加速アシストしてくれるパワースイッチがあります。一時的にですが、蓄えた電力を加速に回せますので必要な時に加速を得ることができます。N-BOXもこの2台と同じ程の加速感です。

この3台で少し違うのは、エンジンの回転フィーリングです。高回転でも淀みなく綺麗な回転サウンドなのは、タントとN-BOXの2台。ステアリングホイールやアクセルペダルから受ける振動が小さく、またエンジンサウンドからも良くできたエンジンだと感じます。

ホンダN-BOX
ノンターボでもパワフルに感じた。
タント
滑らかさが感じられるタントのエンジン
スペーシア
ハイブリッドによる加速性能はぴか一

■まとめ

軽スーパーハイトワゴンは、車室内の広さや、荷室の使い勝手、スライドドアの大きさなどに目を奪われてしまいますが、走りやすさや、質感も大切な要素です。

3台ともに長所・短所はありますが、改めて比べてみると、現時点で最もバランスが取れているのは、王者「N-BOX」のようです。N-BOXがいつまで勝ち続けることができるのか、今後もこのジャンルには目が離せません。

(自動車ジャーナリスト 吉川賢一/写真:エムスリープロダクション 鈴木祐子)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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