【自動車用語辞典:衝突安全「衝撃吸収ボディ」】変形する領域と変形しない領域を組み合わせて乗員を守るボディ構造

■クラッシャブルゾーンで衝撃エネルギーを吸収

●自車だけでなく相手車両や歩行者への対策も進む

多くのクルマは、衝突時の衝撃から乗員を保護するために衝撃吸収バンパーや衝突安全ボディを採用しています。衝突安全ボディは、変形することで衝撃エネルギーを吸収するクラッシャブルゾーンと、変形せずに乗員を守るセイフティゾーンで構成されています。

乗員を守る衝撃吸収バンパーと衝突安全ボディについて、解説していきます。

●衝撃吸収バンパー

バンパーは、低速で歩行者やクルマ、障害物に衝突した時に、乗員と対人、対物保護のための部品です。また、デザイン要素としても重要な役割を担っています。

かつては、バンパーだけで独立した存在でしたが、最近はグリルやアンダースポイラーと一体構造となっており、どこからどこまでがバンパーか、見分けできなくなっています。

バンパーは一見シンプルな構造に見えますが、通常はバンパーフェイス、エネルギー吸収フォーム、衝撃を緩和する金属製バンパービーム、潰れることでエネルギーを吸収するクラッシュボックスで構成されます。

バンパーフェイスは、スタイリングや空気抵抗低減を意識したデザインが増え、樹脂(ポリプロピレン)製が主流です。樹脂は強い力を受けると割れたり変形しますが、自己復元性があり小さな変形なら復元できます。

エネルギー吸収フォームは、発泡タイプとハニカムタイプがあります。発泡タイプが軽量、安価なので主流です。金属製バンパービームは、サイドメンバー間を結合する重要な役目も担っています。

衝撃吸収バンパー
衝撃吸収バンパー

●モノコックボディ

クルマのボディ構造には、「ラダーフレーム」と「モノコック」の2種があります。

重くて頑強なラダーフレームは一部のSUVで採用されていますが、乗用車のほとんどはモノコック構造を採用しています。

モノコックボディは、ボディとシャシーが一体の卵の殻のような構造です。プレスで成形した1~2mm程度の鋼板を重ねた部分をスポット溶接でつなぎ合わせて、箱型に組み立てます。一体構造なためボディ剛性が高く軽量で、しかも車内スペースを確保でき、乗り心地も良好です。

一方ですべての面で支え合っているので、衝撃が加わったときにボディ全体が歪みやすいという弱点があります。

ラダーフレームとモノコックボディ
ラダーフレームとモノコックボディ

●衝突安全ボディ

モノコックボディの耐衝撃性を改良したのが、衝突安全ボディです。衝突安全ボディは、強さと柔らかさの両面を兼ね備えて、乗員を保護する構造です。

事故で衝撃を受けた時には、車室の前後のクラッシャブルゾーンの変形によって衝撃エネルギーを吸収します。一方、車室周りのセイフティゾーンは強度を上げて、潰れないようにして乗員を保護します。前後のクラッシャブルゾーンが潰れて、車室のセイフティゾーンを保護する構造です。

●各社の呼称はさまざま

衝突安全ボディは一般的な構造技術で、トヨタは「GOA」、日産「ゾーンボディ」、ホンダ「G-CON」、三菱「RISE」、マツダ「MAGMA/AKYACTIV-BODY」、スバル「新環状力骨構造ボディ」、スズキ「TECT」、ダイハツ「TAF」と呼ばれています。

衝撃吸収ボディ
衝撃吸収ボディ
ゾーンボディの機能
ゾーンボディの機能

最近の衝突安全技術は、自車の安全性能の向上とともに相手車両への加害性の低減を両立させることが最大のテーマとなっています。

乗員保護のための衝突安全ボディだけでなく、バンパーには歩行者の脚部への衝撃緩和やボンネットやフェンダーには頭部の衝撃軽減など、歩行者障害軽減にも積極的に取り組んでいます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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