【自動車用語辞典:衝突安全「エアバッグ」】ガスの力で「袋」を膨らませて衝撃を吸収する安全装備

■あくまでシートベルトの補助装置

●6個以上装備しているクルマが一般的

エアバッグは、正式にはSRS(補助拘束装置)エアバッグといいます。乗員がシートベルトを着用していることが前提で、衝突時にバッグをガスで膨らませてクッションとして衝撃を吸収します。

シートベルトとともに、事故発生時の障害軽減や死者数低減に大きく貢献しているエアバッグについて、解説していきます。

●エアバッグの基本

衝突時にはシートベルトで乗員の姿勢を適正に保ちつつ、瞬時にエアバッグを膨らませて衝撃を吸収して安全を確保します。あくまでも乗員がシートベルトを装着していることが前提で、シートベルトの機能を補助する役割を果たします。衝撃を吸収すると、衝突後のハンドルやブレーキ操作と視界確保のために、すぐに収縮します。

エアバッグは、最初にドライバー保護のために運転席のステアリング内に、続いて助手席のインパネ内に装備されました。さらにサイドエアバッグ用に座席内、カーテンエアバッグ用にルーフライニング内と、より安全性の向上を目指して多くの場所に装備される傾向にあります。

運転席と助手席への装備は当然のこと、最近は合計6個以上のエアバッグを装備しているクルマが一般的です。

●エアバッグシステムの構成

エアバッグシステムは、エアバッグモジュールとエアバッグECU、と前突側突用の衝撃検知センサーなどで構成されます。衝突検知センサーは、応答性を高めるためにクルマの前面のクラッシャブルゾーンに配置して、衝突時の加速度をECUに送信します。

その他、エアバッグ展開が必要と判断した時にエアバッグモジュールに点火電流を流す点火装置、システムの故障診断機能、バッグアップ機能を持っています。

エアバッグシステム
ステアリングに内蔵されたエアバッグシステム
エアバッグの動作原理・制御
エアバッグの動作原理・制御

●エアバッグの動作原理と制御

衝突時、車両前方に装着された衝撃検知センサーとECU内に装着された加速度センサーが衝撃を検出します。応答が速い衝撃検知センサーは局所的な衝撃でも反応してしまうので、衝突の判定は加速度センサーの情報と合わせて総合的に判断します。

エアバッグの展開が必要と判断された場合には、点火装置で着火してインフレーター(ガス発生装置)を作動させ、大量のガスを発生させます。

発生したガスは、バッグの中に充満し圧力を上昇させてステアリングカバーを押し破り展開します。衝突を検知してから、運転席なら0.02~0.03秒、助手席なら0.03~0.04秒後に展開が完了します。

バッグにはベントホールという穴が開いており、バッグの内圧が上がりすぎるのを防いでいます。

●社会問題化した事例

2010年~2017年頃まで、自動車業界を揺るがす大問題となったタカタ製アエバッグの不具合が頻発しました。

国内メーカーのほとんどが使用し世界シェア第3位のタカタ製エアバッグが、2008年頃から米国で展開時に異常破裂し、金属片が飛散することによって死亡事故まで引き起こしました。

原因は、インフレーターガス発生剤(硝酸アンモニウム)の品質(特に湿度の影響)管理が不十分であったためです。原因がはっきりしないまま、2009年から国内のほとんどのメーカーが大量リコールをするという異常な事態に発展したため、大きな社会問題になりました。


エアバッグは、交通事故が発生した際には、ドライバーと乗員の命を守ってくれる最後の砦となる重要な装備です。

ただし、シートベルトを着用してない、あるいは正しく装着してないとエアバッグは正常に乗員を保護できないことに留意する必要があります。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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