スピード違反がなくなる? 標識を認識して速度を抑える装置のガイドラインが策定【週刊クルマのミライ】

■自動運転時代に向けての機能? 制限速度で走ることを支援する「ISA」の採用は待ったなしか

いま日本は高齢化が進んでいます。ということは、高齢ドライバーが増えるということでもあります。

加齢による衰えは誰もが避けられません。いわゆる反射神経など肉体的に反応が鈍ってくる高齢ドライバーのドライビングミスをカバーするための先進安全機能の開発が求められています。

2109年12月17日、国土交通省は『交通安全緊急対策に係る車両安全対策の措置方針について~高齢運転者による交通事故の削減に向けて~』という報道発表をしています。最新の車両安全対策等について、国土交通省の措置方針をとりまとめたものです。

「衝突被害軽減ブレーキの国内基準策定」、「ペダル踏み間違い急発進抑制装置などの性能認定制度の導入」、「既販車への後付けの安全運転支援装置の普及」、そして「新たな先進安全技術の開発促進」と4つの措置方針が発表されています。

気になるのは、4つ目の「新たな先進安全技術の開発促進」です。この文言だけでは、どのような機能を指しているのかわからないでしょう。具体的には、制限速度を守るための機能を開発していこうという音頭であり、機能面・技術的要件面でのガイドラインとなっています。

交通安全緊急対策に係る車両安全対策の措置方針について
国土交通省による交通安全緊急対策に係る車両安全対策の措置方針について(同省 発表資料より)

その機能は、『自動速度制御装置(ISA:Intelligent Speed Assistance)』と名付けられています。

簡単にいうと、標識や地図情報などから制限速度を判断して、速度違反をしないようにドライバーを支援するというものです。あくまでもリミッターではなく、制限速度に合わせて車速を制御するものとして想定されています。そのため、追い越しや緊急回避では制限速度を超えることは可能な機能にするという指針が出されています。とはいえ、実質的には制限速度を大幅に超えた速度を出すことはできなくなるでしょう。

また、手動での上限速度の設定も求められています。

欧州車に乗っているオーナーは知っているでしょうが、一部の欧州車には手動の速度リミッターがついています。欧州では、住宅街などを走行する際に制限速度を厳守することが求められています。

そうしたシチュエーションにおいて、絶対に速度オーバーをしないようにワンタッチで速度リミッターをかける機能が備わっているのです。同様の機能を、国産車にも搭載すべしというのが国土交通省の指針です。

住宅街などでの制限速度を守りやすくなるISAへのニーズは欧州でも高まっています。このタイミングでISAのガイドラインが出てきたことは、国際的な流れに日本も乗っていくと理解すればいいでしょう。日本でもゾーン30(生活道路での安全を確保するため、区域によって30km/hの速度規制を実施すること)といった交通安全施策が進んでいますから、こうした機能を必要と感じるシーンは増えていくことでしょう。

誰もが安心して運転できる環境を整備することが課題

また、誰もが速度を守ることは、これからの自動車社会において重要です。

制限速度を守ることで目先の交通事故防止・事故被害の軽減にもつながりますが、それだけではありません。いま最注目の自動車テクノロジーといえば「自動運転」ですが、自動運転のクルマに交通違反をするようなプログラムを実行させるわけにはいきません。つまり制限速度を守ることが基本となります(緊急回避のプログラムで、どうするかという問題は残りますが)。

一方で、マニュアル運転のクルマは自由に速度を出しています。そうした混走は、かえって危険という指摘もあります。その問題をクリアするためには全車が制限速度を守る仕組みを作るというのは、有効な手法になります。

つまりISAというのは自動運転時代にマニュアル運転車を残すためには必須のテクノロジーといえます。このタイミングで技術面でのガイドラインが出たことは、自動運転の普及につながる課題の解決策になるともいえるでしょう。

(山本晋也)

この記事の著者

山本晋也 近影

山本晋也

日産スカイラインGT-Rやホンダ・ドリームCB750FOURと同じ年に誕生。20世紀に自動車メディア界に飛び込み、2010年代後半からは自動車コラムニストとして活動しています。モビリティの未来に興味津々ですが、昔から「歴史は繰り返す」というように過去と未来をつなぐ視点から自動車業界を俯瞰的に見ることを意識しています。
個人ブログ『クルマのミライ NEWS』でも情報発信中。2019年に大型二輪免許を取得、リターンライダーとして二輪の魅力を再発見している日々です。
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