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■オクタン価、留出温度特性、硫黄含有量が重要な性状
●エンジンの環境対応技術に大きな影響
日本では、ほとんどの乗用車はガソリン車です。何も変わっていないように見えるガソリンですが、実は燃費や性能、排出ガス特性の改良要求に応える形で、その性状はエンジンとともに進化しています。
ガソリン性状がエンジンにどのような影響を与えるのか、その重要性について、解説していきます。
●ガソリンの基本特性
ガソリンや軽油、灯油、重油などの燃料は、いろいろな成分が混合している原油を加熱して、蒸留温度を調整することによって抽出します。
ガソリンは、沸点が30~220℃程度の成分で低温でも蒸発しやすい特性を持っています。また、点火源を近づけて発火する引火点は、約-40℃以上と火花点火エンジンにとって適しています。
ガソリンの性状は、エンジンの燃費や排出ガス特性、性能に大きな影響を与えます。特に重要な性状は、ノッキングの発生しづらさアンチノック性を表すオクタン価、揮発しやすさを代表する留出温度特性、触媒の劣化に悪影響を与える硫黄含有量です。
●オクタン価
ガソリンは、化学反応や精製で得られたさまざまな基材を混合して製造されます。オクタン価は、アンチノック性示す指標で、オクタン価の高い改質ガソリンなどを配合することで調整されます。
JIS規格では、レギュラーガソリンはオクタン価89以上、プレミアムガソリンはオクタン価96以上に規定されています。
オクタン価が高い、アンチノック性が高いとエンジンの圧縮比が上げられるため、熱効率が向上します。一般に、プレミアムガソリン仕様のエンジンの方が高い圧縮比設定となっており、出力と燃費性能が優れています。
●オクタン価の基準となるもの
オクタン価は、イソオクタン(オクタン価100)とノルマルへプタン(オクタン価0)の2つの燃料を混合した燃料のアンチノック性を基準にして決めます。
ある燃料のアンチノック性が、イソオクタン90%とノルマルへプタン10%の混合燃料と同等であったなら、その燃料のオクタン価は90です。
●留出温度特性の与える影響とは
ガソリンの沸点は30~220℃程度で、さまざまな揮発性の成分が混合しています。ガソリンの揮発性は、通常10%と50%、90%の留出温度で代表させます。それぞれが、始動性や排出ガスHC特性などに大きな影響を与えます。
10%留出温度(ガソリンの10%が留出する温度)は始動性に関係し、高すぎると始動性が悪化します。逆に低すぎると、高温時にペーパーロック(加熱によって燃料の一部が気泡となり、流れが阻害される現象)が発生しやすくなります。50%留出温度や90%留出温度もエンジンの暖気特性やHC排出特性、出力に影響を与えます。
●硫黄含有量の悪影響とは
クルマの排出ガス性能は、触媒の浄化効率に大きく依存しています。ガソリン中に大量の硫黄分が含まれると、排出ガス中の硫黄酸化物が触媒の貴金属Pt(白金)やPd(パラジウム)を被毒して、その結果浄化性能を低下させます。
硫黄分を除去する脱硫工程にはコストがかかるため、ガソリンに含まれる硫黄分は触媒技術にとって大きな障壁でした。
排ガス規制が強化される中、ガソリン中の硫黄分は段階的に低減されてきました。2005年から、日本ではガソリン中の硫黄分は10ppm(ppm:100万分率)まで低減されました。このガソリンは、実質的にほとんど悪影響を及ぼさないことから、サルファーフリー・ガソリンと呼ばれています。
ガソリンのオクタン価向上や揮発性改良、硫黄分除去などが、エンジンの環境対応技術の進化に大きく貢献してきました。今後は、石油依存からの脱却やCO2低減の観点から、アルコール燃料やバイオ燃料との組合せなどをさらに進めることが、ガソリンに求められています。
(Mr.ソラン)