【自動車用語辞典:潤滑系「オイルの劣化」】オイルが劣化する原因と交換するタイミング

■せん断や熱、燃焼ガスや摩耗紛の混入などにより劣化する

●劣化を放置するとエンジンが焼き付く場合も

何を目安にしてエンジンオイルを交換するのか、悩ましいところです。

メーカーが推奨するオイル交換時期(例えば、5000~10000km)を守れば問題ないとは思いますが、使用状況によって劣化具合は異なります。

エンジンオイルの劣化要因や劣化の影響について、解説していきます。

●なぜエンジンオイルは劣化するのか

エンジン内部を循環するエンジンオイルは、さまざまな原因で劣化して潤滑などの本来の機能が低下します。エンジンオイルの劣化要因としては、せん断や熱、ブローバイガス(燃焼ガス)の混入、エンジン内部の汚れや摩耗粉の混入などの影響があります。

・せん断による劣化
回転部や摺動部を潤滑するオイルはせん断を受け、特に粘度向上剤(添加剤)のポリマーはせん断されて、ヘドロ状のスラッジに変化します。せん断を受けると、粘度が低下して油膜が形成しづらくなります。

・熱による劣化
エンジンオイルは、油温80~100℃で最適な性能を発揮するように調合されています。実際の使用条件は、-30℃から130℃程度まで変動するので、油温の温度変化によって劣化が進みます。

・ブローバイガス(主として燃焼ガス)による劣化
ピストンとシリンダーの隙間からクランクケースに漏れるブローバイガスがオイルに混入すると、劣化が加速します。

・エンジン内部の汚れによる劣化
オイルには内部の汚れを清浄する作用もあるので、循環する過程で汚れ成分や摩耗粉などが混入して劣化が進行します。

●劣化したら何が起こるのか

オイルの主要な働きは潤滑性ですが、他にも密封性や冷却性、緩衝性、防錆性、洗浄性があります。劣化して最もエンジンへの影響が大きいのは粘度の低下です。ネバネバのオイルからサラサラのオイルに変化すると、適正な油膜が形成できなくなります。

回転部や摺動部が傷つき、燃費が悪化してエンジンノイズが大きくなります。最悪の場合は、焼き付く可能性もあります。

オイルの劣化具合を目視でチェックするため、通常はオイルレベルゲージで行います。新品のオイルは薄い黄金色でネバネバですが、劣化すると少しずつ赤黒くなり、最後はサラサラで真っ黒になります。ただし、交換時期をレベルゲージに付いたオイルで見極めるのは、プロ以外は難しいです。

●劣化状況を推定する仕組みも

より適正なオイル交換のために、オイルの劣化状況を推定する手法が採用され始めています。

運転中の各種センサー(オイルレベルセンサー、油温、静電容量を使った劣化判定など)と運転状況の履歴から、オイル劣化を推定して警告してくれるシステムです。

まだ正確ではありませんが、推定精度が高まればさらに普及してくると思われます。

●適正なオイル交換時期とは

オイル交換時期は、クルマやエンジンの仕様によって多少異なりますが、メーカーが設定した推奨値があります。一般には、5000~10000kmまたは6ヶ月~1年程度です。

ただし、シビアコンデションと呼ばれる厳しい使用条件では、交換時期は通常の半分程度を推奨しています。シビアコンデションとは、走行距離が極端に長い(20000km/年以上)、悪路の走行頻度が高い、高速走行や登坂走行頻度が高い、低速走行や短距離走行頻度が高い、などです。

オイル交換の目安
一般的なオイル交換の目安

日常的にオイルレベルゲージを抜いて、オイル量や劣化具合をチェックする人はほとんどいないのではないでしょうか。エンジンの信頼性やオイル性能の技術が向上したため、通常はオイル量が極端に減るとか、激しい劣化が起こることはなくなりました。

劣化したオイルを使い続けると、燃費の悪化やエンジンの寿命を縮めることになります。2年ごとの車検の時だけでなく、少なくとも年1回程度はオイルを交換することを推奨します。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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