■東京モーターショーで、ひっそりとしかし確実にFCVの活用が示されていた
会場を分割して開催された東京モーターショー2019が閉幕して、もうすぐ半月です。
入場者数が130万人を超えたという発表もありましたが、会場が分散していたほか、無料ゾーンもあっただけに、その数字を鵜呑みにして前回から何%増になった! というのは適切ではないように思います。それでも新しいモビリティ社会に向けて各社が考えていることや、自動車業界全体のトレンドを掴むには十分なモーターショーだったといえるでしょう。
とくに次世代の方向性を感じることができたのはサプライヤー(部品メーカー)が集まっていたゾーン(西展示棟、南展示棟の4階)です。なかでも日本のデンソーとドイツのボッシュという二大サプライヤーの発表内容には、完成車メーカーのコンセプトカーを見ているだけでは感じられない近未来が含まれているように思えました。
そうした近未来を構成する要素のひとつが「燃料電池」です。水素を燃料に大気中の酸素と反応させて電気を生み出す燃料電池は、水素充填が短時間で可能なことや、一回の充填での航続可能距離などでバッテリーEV(BEV)よりも利便性に優れたゼロエミッション車といわれていましたが、いまや完全にBEVに押されてしまい、ある種オワコンのようなイメージがついています。
しかし、デンソーの発表では「商用車カテゴリーを中心に燃料電池の可能性がある」ということですし、ボッシュは燃料電池に酸素を送り込むための電動コンプレッサーを一等地に展示してアピールしていました。BEVだけではすべての自動車を置き換えできないというわけです。
とくにトラックなど物流を支えるモビリティにおいては一台の運用時間が利益に直結します。また、荷物を運ぶためのクルマが大量のバッテリーを運んでいる状態になるのもナンセンスといえます。
つまり、大型トラックなどの電動化においては燃料電池車(FCV)にすることが向いているといえるのです。
逆に近距離ユースのコミューターであれば、まだまだコストの高い燃料電池を使うメリットはほとんどありません。BEVのほうが使い勝手も含めてマッチしいるといえます。つまり、BEVとFCVはライバルではなく、適材適所でお互いのメリットを活用して、大気汚染を防ぐゼロエミッションのモビリティ社会に対して補完しあう関係にあるといえます。
もちろん、大型トラックからFCVが普及していけば水素ステーション・インフラも整備されてくるでしょう。そうなると、乗用車も含めてFCVを活用しやすい水素社会になっていくことも考えられます。
それでも、ほとんどの乗用車においてはゼロエミッションであることを条件とするならばBEVのほうが用途に対してベストソリューションといえるかもしれません。しかし、商用車のようなビジネスユースにおいて燃料電池がマッチしているように、長距離や長時間の利用がメインとなるカテゴリーにおいてはFCVのほうが向いている面があります。
たとえば、ハイヤーや社用車などショーファードリブンとして使われる乗用車にはFCVの特性が合っています。トヨタが東京モーターショーに併催された「FUTURE EXPO」の会場に新型FCVを示す「MIRAI CONCEPT」を展示していました。そして、後輪駆動になるという次期MIRAIに対して、市場はセンチュリーやレクサスLSに近いポジションを認めることになるかもしれません。
(山本晋也)