【自動車用語辞典:冷却系「グリルシャッター」】フロントグリル背後のシャッターで走行風を制御する仕組み

■冷却・暖気性能と空力の最適化で燃費を向上

●HEVではより大きな効果が期待できる

グリルシャッターは、フロントグリル背面に搭載したシャッターを開閉することによって、走行風を制御する装置です。ラジエーターへの走行風を運転状況に応じて制御して、冷却・暖気性能と空力性能を最適化して、燃費を向上させる手法です。

車体の燃費向上手法のひとつとして注目されているグリルシャッターについて、解説していきます。

●なぜグリルシャッターは必要なのか

グリルシャッターは、ラジエターシャッター、アクティブシャッターとも呼ばれます。ポルシェなどのスポーツ車や多くの国産車、最近はトヨタが2012年のレクサスHEVからプリウスまで、HEV車を中心に積極的に採用しています。

エンジンの冷却水は、ラジエターが走行風を受けることによって冷却されます。冷却能力は、エンジンがどんなに厳しい条件でもオーバーヒートしないように設定されています。一方で、エンジン暖気運転や走行風が強い高速走行中には、過冷却の状況が発生します。

これを解決するのが、ラジエーターへの走行風を制御するグリルシャッターです。

●段ボールをシャッター代わりに

昔々の話ですが、寒冷地のトラックなどは寒くなるとラジエターの一部を段ボールで塞いでラジエターが冷え過ぎないようにしていたそうです。制御性の良くない昔のクルマでは、寒いときに冷えすぎて、走行してもなかなかエンジンが温まらないという状況があったようです。

●グリルシャッターの狙い

走行風は、グリルとラジエターを通過して、エンジンルームに入って床下に流れていきます。この流れでラジエターとエンジンを冷却しますが、流れのパターンは空力性能に大きな影響を与えます。

グリルシャッターは、走行状況やエンジンの暖気状態に応じてシャッターを自動開閉し、最適な冷却・暖気性能と空力性能を実現します。冷却が必要な場合はシャッターを開き、暖気を促進したい場合はシャッターを閉じて走行風を遮断します。特に暖気運転中の燃費が弱点のHEV車では、グリルシャッターによる暖気促進は効果的です。

また、高速走行のような十分な冷却能力がある場合も、シャッターを閉じて空力性能を改善して、高速燃費を向上させます。

●冬にHEVの燃費が悪化する理由

頻繁にアイドルストップを行うHEVでは、冷態時の燃費悪化が目立ちます。暖機運転中は、室内の暖房機能を維持するために、アイドルストップをしないように制御しているためです。発売当初のHEVには、冬季の燃費が良くないという評判がありました。

グリルシャッターの作動原理
グリルシャッターの作動原理

●グリルシャッターの制御

グリルシャッターは、一般的には樹脂製でグリルの背面に搭載して、モーターによって自動開閉します。車速をベースに、外気温やエアコンの作動状況に応じて開閉制御します。

エンジンが十分に暖まった通常の走行状態では、グリルシャッターは冷却性能を重視して開いています。

グリルシャッターが閉じるのは、冷態時で暖気を促進する場合、また高速走行で過冷却を防止する場合などです。シャッターを閉じることによって、グリル前面で受け止めた走行風を床下に導き、整流効果によって空力性能を向上させる効果もあります。

また、エアコンの作動状況(冷媒圧)を検知して、車速や外気温に応じてシャッターを開閉制御します。


グリルシャッターの開閉によって、エンジンの冷却性と暖気性を両立できます。同時に、空力を改良することによって高速燃費を、暖気促進で実用燃費を改良できる有効な手段です。

比較的簡易な装置なので、今後さらに多くのクルマが標準的に採用することが予想されます。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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