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ツインリンクもてぎで11月3日に開催されたSUPER GT最終戦「2019 AUTOBACS SUPER GT Round8 MOTEGI GT 250km RACE」をもって2019シーズンを終えたSUPER GT。4月の岡山戦から続く全8戦の長い戦いを終えた今、改めて8月の富士500mileレースから最終戦もてぎまでの後半4戦のModulo勢の活躍を振りかえって見ましょう。
富士500mile:ストレートスピードを生かしたコースが得意な34号車
GT300クラスの34号車 SUGO戦のModulo KENWOOD NSX GT3が今季一番の活躍を見せたのは8月3、4日に開催された第5戦の富士500mileレース。この富士500mileレースで予選順位はこれまでの4戦を見ればほぼ平均とも言える8位。しかしその内容にはこれまでと大きく違う部分があります。予選Q2でアタックをした大津弘樹選手は「タイヤのピークを外した結果」という8位のポジションですが、アタックラップ2周めの第3セクターを区間トップに迫る勢い、そして続く3周目の第1セクター、第2セクターをすべて区間トップとしており、タイヤピークをもう少しあとにずらせていたならばポールポジションも夢ではなかった、というタイムを出しています。
2018年に参戦してからトップに食いつくようなタイムを出せなかったのが嘘のようなこの今回の富士500mileレースでの予選タイム。否が応でも期待が高まります。
タイで懸念されていたブレーキトラブルについて道上選手は「ブレーキパッドを銘柄変更して、そこの耐久仕様のパッドに入れ替えた」とのこと。また「GT3マシンはブレーキローターやキャリパーの仕様変更が認められていないのでパッド以外では性能向上できない」と説明してくれました。
長距離レースではピットワークも重要で作業時間を短縮すればそれだけポジションを上げる可能性が出てきます。タイヤ無交換作戦をするチームはその作業時間の短縮を狙ってのものなのですが「Modulo KENWOOD NSX GT3は特性上4本をすべて交換しないといけない。タイヤでリスクを負うわけには行かない」ということで義務付けされた4回のピットインで必ず4本交換を行います。「毎回フレッシュなタイヤにすることで、その作業時間の差をコース上で縮めていこうと考えています」と道上選手は語ります。またピット作業の工程削減もさることながら、素早さも重要な鍵となりました。最後のピットインではその時点での3位争いをしていた61号車 SUBARU BRZ R&D SPORTと同時にピットイン。Modulo KENWOOD NSX GT3のピットはSUBARUの2ブロック先にあり、先に作業を始めたのはSUBARUでした。が、給油とタイヤ交換という同じ作業をModulo KENWOOD NSX GT3は8秒も早く終わらせコースに復帰。ピットワークでSUBARUを追い抜いたのです。このときの様子を最終スティントを担当した大津選手は「全体的に燃費をいい状態で保てたので最後の給油時間をかなり短くできた」と語ります。
そのピットワークのおかげでSUBARUを追い抜いただけではなく、すべてのチームが最後のピットインを終えたときには4位というポジション。しかも3位の18号車 UPGARAGE NSX GT3は目の前にいたのです。
「レースのときは人が変わる、とよく言われんですよ」と語る大津選手が目の前の敵に襲いかからないわけがありません。158周目のTGRコーナーで仕掛けた大津選手。その後のコカ・コーラコーナーまで2台がワイドになりながら激しいドッグファイトを繰り広げながらコーナーに侵入していきます。こういうときの大津選手は行ける限りは全く引く素振りを見せません。その後のトヨペットコーナーでModulo KENWOOD NSX GT3が前に出て3位浮上。この観ているものを熱くさせる激しいバトルが大津選手の真骨頂。
3位となり表彰台に上がった道上選手と大津選手。2018年のオートポリス戦以来の表彰台となります。今回の結果を踏まえてレース全体について道上選手に伺ったところ「マシンにしてもピットワークにしても特別に何かが変わったということではなく、これまでの積み重ねの成果」と語っています。
オートポリス300km:状況の変化が速さをもたらした34号車。しかし・・・
第6戦は9月7、8日に開催された第6戦オートポリス300km。9月7日の予選をQ1敗退という残念な結果で終えたGT300の34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3。7日午前中のフリー走行でも、オートポリス特有の荒れた路面がタイヤのライフを削るうえ、薄っすらと路面を覆うように降り積もった火山灰がグリップそのものを奪っていきました。
予選Q1をドライブした道上龍選手はタイヤのチョイスが原因と語ります。「オートポリスは他のサーキットと違い主要レース(SUPER GT、スーパー耐久、スーパーフォーミュラ)以外のレースがあまり行われないので路面にラバーが乗っていなくて荒れた状態になっています。だから予選だけを考えてのソフトなタイヤをチョイスすると決勝では5周くらいしか持たないんです」と語ります。また道上選手は続けて「決勝でのスタートタイヤは予選で使ったタイヤを使用します。Q2に進出していればQ1かQ2どちらかのタイヤが抽選で決まります。そんなルールの中では決勝で使いものにならないタイヤは予選では使えません。ほかのチームの中にはころころ変わる今回の天気予報から『決勝はウェットコンディションだ』と想定し、予選でソフトタイヤを使ったチームもあったようですが、うちのチームはドライの決勝を想定したタイヤ、今回の予選ではハードコンパウンドのタイヤをチョイスしてQ1に臨んでいます」と語っています。確かに道上選手のいうとおり、7日の午前中に行われたフリー走行でも、コースのレコードライン以外はタイヤカスが散らばり、まるで耐久レースの中盤以降の様な路面状況でした。
道上選手は「フリー走行では路面に散らばるタイヤカスを拾ってしまうピックアップなどにも悩まされました。しかも埃っぽいということもあって予選ではアタックラップになろうという時でもグリップのピークが来ない。こんな状態で臨んだ予選Q1で結果が思うように伸びなかった(予選18位)、ということになってしまいました」と語りますが、「予選結果からみればあまりいい結果とは言えませんが、決勝レースではレーシングカーが周回を重ねるごとに路面にラバーが乗ってきますし、火山灰も飛ばしてくれるでしょうから予選の時にライフの長いハードのタイヤをチョイスしていますので上に上がる、追い上げることはできると思います」といいながら続けて「うちには追い上げるのが得意な大津がいますから」と語ります。
9月8日の決勝レース。グリッドは予選順位通りGT300の18番グリッドとなります。この日のスターティンググリッドは、雲があるものの晴れという天候となり蒸し暑さも感じる夏の陽気。台風13号の懸念はあったものの、7日の予選日でもオートポリスには影響はなく、日付が変わる頃には九州を抜けてしまいました。
しかし天気予報ではにわか雨が予想されており、それがいつやってくるのかを見極めることが勝負の分かれ目となります。雨が降る可能性が高い第2スティントを担当する大津選手は「雨は好きじゃない、むしろ嫌いですね」と語っていますが、シーズン前のテストなどでは嫌いだからこそ集中して雨のドライビングを練習した、という話もあります。
予報通りGT500クラスの20周目辺りから第一コーナー周辺で雨が降り出しました。ウェットとドライが混在する路面が各チームのマシンを苦しめ始めます。GT500クラスの30周を過ぎた辺りではホームストレート以外はかなりの雨量となり、各チーム続々とピットイン。しかし交換されるタイヤはレイン、スリックと様々で、ここがひとつの勝負どころとなってきます。
Modulo KENWOOD NSX GT3はレインタイヤを装着しピットアウト。しかし、Modulo KENWOOD NSX GT3はこのピットアウトで大きなミスを犯します。タイヤ交換に使うインパクトレンチのエアチューブを引っ掛けたままピットアウトしてしまったのです。これは後にピット作業違反のペナルティとなってしまいます。ペナルティはペナルティとして受けることとなりますが、そのペナルティの分までタイムを稼がなくてはいけません。
しかしピットアウトの直後にSCが導入されると、全チームが同一周回となり前を走るライバルとの差も一気に縮まります。前を行くライバルが見えたSC解除の瞬間からのModulo KENWOOD NSX GT3の走りには凄まじいものがありました。スリックタイヤを履いていたライバルを次々と追い抜き、ピットアウト時に14位のポジションだったところからたった2周で6位まで急浮上します。
しかしジェットコースターストレートの先で9号車 PACIFIC MIRAI AKARI NAC PORSCHEがコースアウトし、再びSCが導入されることになります。3回目のSCがGT500の49周目に解除されると、再びペースを上げてきたModulo KENWOOD NSX GT3。ドライブするのは「雨は嫌いだ」と言っていた大津弘樹選手。
しかし好きか嫌いかは別として雨のオートポリスでは光る走りを見せてくれました。GT500の54周目にはなんと4位に浮上!ここまででスタートから14台抜きという暴れっぷりです。しかしここまで速さを見せてくれたModulo KENWOOD NSX GT3ですが、GT500の55周目でピット作業違反のドライブスルーペナルティを消化するためピットロードを走行します。そして最終的には11位でフィニッシュする結果になります。
ペナルティを受けて順位が落ちたとは言え、ここまで速さを見せたModulo KENWOOD NSX GT3について道上龍選手は「どちらに転がるかわからない天候で、レインタイヤを選択した作戦は間違っていなかった」と語ります。その上で「ピット作業違反によるペナルティで勝負権を失ったことは本当に残念です」とも語ります。しかしマシンのポテンシャル、大津選手の成長は本物であると言えるでしょう。
SUGO300km:予選Q1全体でトップタイムを叩き出した34号車の大津弘樹選手
9月21、22日、宮城県のスポーツランドSUGOで開催された第7戦SUGO300km。ここでの最大のトピックは21日の予選Q1で大津選手がGT300の2グループ両方でのトップタイムを叩き出したこと。
この第7戦の行われるスポーツランドSUGOでは、コースの規模からGT300クラスが一斉に予選Q1を走行するとタイムアタックをしきれないマシンが出たり、またアクシデントも多くなりがちで赤旗中断なども頻発するために、2018シーズンから2グループ制のQ1が行われており、この第7戦SUGOでModulo KENWOOD NSX GT3はQ1をBグループとしてアタックすることとなります。
14時18分に始まったBグループの予選Q1。ウォームアップからタイムアタックが始まりだす残り時間5分ほどのところで大津選手が1分18秒前半のトップタイムを出すと、各車がそれを目指してタイムアタックをしていきます。これまでの予選ではアタックラップを1周すればそれ以上にタイムが上がらない場合が多かったModulo KENWOOD NSX GT3でしたが、このSUGOではさらにタイムを伸ばしていきます。そして翌周には1分18秒181を叩き出します。結局予選Q1のBグループでこのタイムを超えるチームは現れずトップタイムのままQ2への進出を果たします。
Modulo KENWOOD NSX GT3が遅いわけではないが、Q2では他車がタイムアップしてきます続く予選Q2では道上龍選手がドライブを担当します。またもトップタイムでポールポジション獲得か? と思われたQ2ですが、ライバルチームの中にはQ1から大きくセッティングを変えてQ2に臨むチームが出てきます。ポールポジションを獲得したチームはQ1からQ2で約1.5秒もタイムを上げてきました。
そのことについてQ2を担当した道上選手は「うちのマシンが遅いということはなかった」としながら「GT300のQ1のあとGT500のQ1をはさんでのQ2は、路面に(タイヤの)ラバーが乗ってタイムが上がるのは普通のことなんですが、1周3kmほどのSUGOで1秒以上もタイムが上がるというのはちょっとイメージできなかった」とライバルチームとの対比を語ります。
9月22日の決勝ではスターティンググリッドに並び始める頃に降り出したごく細かい雨でタイヤの選択を迫られ、スターティンググリッドは慌ただしくなっていきます。
GT300の34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3はスターティンググリッドでのタイヤの判断をスリックタイヤとしていました。しかし、このスリックタイヤという判断で序盤に勝負権を失ってしまったModulo KENWOOD NSX GT3。「もっと早くピット・インするとか、それこそ2ピット作戦とか選択肢はありましたが、時折雨が弱くなるところで判断が鈍りました」と語るのはスタートドライバーだった道上龍選手。結局の所、予選9番手からスタートしながらタイヤチョイスで23番手にまで順位を落とすことになってしまいます。
そんな状況下でピットインをし大津弘樹選手に交代をしてレースに復帰します。その大津選手、ヘビーウェットになってからの巻き返しは凄まじく、コーナーのあちこちが川となっている状況下でも臆することなく攻め続け1分30秒台を連発しながら追い上げていきます。それこそ目の前にいる敵は全て噛み付いていく猛獣のような走りには感動すら覚えます。
「雨は好きじゃない」と語りながらも今シーズンのレースは雨が多いことから実績を積み上げていったとも言える大津選手。最終的には13位でチェッカーを受けることとなり10台ものライバルを抜いてみせたのです。
「正直な話、このコンディションで13位まで順位をあげられるとは思っていなかった」と道上選手が語るように大津選手の成長は著しいと言えるでしょう。
ブレーキとタイヤのピックアップに悩んだ最終戦もてぎ
11月2、3日にツインリンクもてぎで開催された最終戦のもてぎ250km。予選はQ2へ進んだもののピックアップに悩んだ予選日のフリー走行から決勝レースを見据えた固めのタイヤを選び、タイムを伸ばせずに12番手からのスタートとなってしまったGT300の34号車 Modulo KENWOOD NSX GT3。
道上龍選手のスタートによりレースが始まったModulo KENWOOD NSX GT3。GT500での6周目までは12位を走行していましたが7周目から徐々に順位を落としていってしまいます。そしてGT500での22周目にピットイン、タイヤを四輪交換し大津選手に引き継いでいきます。大津選手にバトンタッチしてもなかなかタイムが伸びません。
タイムが上がっていかないままGT500、GT300のトップ集団が襲い掛かってきますが為す術もなく道を譲らざるを得ません。最終的には24位という結果でレースを終えることとなりました。
この結果に対し道上選手は「タイヤのピックアップが酷過ぎて全くレースにならなかった」と語ります。ピックアップ現象とは路面に散らばるタイヤカスや自車から剥がれ落ちるタイヤカスを自車のタイヤが拾ってしまうこと。これにより大きな振動やグリップ力の極端な低下を招いてしまうのでレーシングスピードで走ることが出来なくなります。
「ピックアップを避けるために固めのタイヤでスタートしたのですが、それでもピックアップが起こってしまった」と語る道上選手。ソフトでグリップ力が高いということはそれだけタイヤの粘着力が高いということで、グリップ力がそれほど高くない固めのタイヤであれば少しは粘着力が落ちてピックアップ現象が起こりにくいと判断したようですが、もてぎタイヤカスはそれ以上にしつこくModulo KENWOOD NSX GT3を攻撃してきたようです。
「このままの状態で大津(弘樹選手)に渡すのも酷だとは思ったのですが、策がない以上はこれで行くしかないということでドライバーチェンジの時に苦渋の選択で現状維持のタイヤでの交換で行きました」とも語る道上選手。また大津選手は「いろいろなことを試してピックアップを剥がそうとしましたが結局のところは酷くなる一方で改善されることはありませんでした」と語ります。
富士500mileでの表彰台、オートポリスでの4位からのペナルティストップでの11位、SUGOでのQ1最速など最終戦もてぎ以外では輝くものを必ず見せていたModulo KENWOOD NSX GT3。来る2020シーズンがどのような体制になるかはわかりませんが、間違いなく光るものを見せてくれることでしょう。