【自動車用語辞典:冷却系「サーモスタット」】熱すぎず冷えすぎず。冷却水の温度を一定に保つ仕組み

■冷却水は80℃前後が理想的

●ワックスの膨張を利用してサーモスタットが開閉する

エンジンはオーバーヒートしないように冷却水で冷やしますが、冷やし過ぎてオーバークールになってもいけません。エンジンにとっては、冷却水温度が80℃前後になることが理想です。

エンジンの入口または出口で冷却水温度を制御しているサーモスタットの構造や働きについて、解説していきます。

●サーモスタットの役目とは

シリンダー内の燃焼による発熱で高温になった冷却水は、ラジエーターに送られて冷やされます。冷えた冷却水は、再びエンジンに戻され、エンジンとラジエーター間を循環します。ただし循環するだけでは、運転状況や外気温の変化によってはオーバーヒートやオーバークールが発生します。

ラジエーターに流れる冷却水温度を制御して適正なエンジン水温を維持し、また水路を切り替えて暖気時間の短縮を図るのが、サーモスタットの役目です。最近は制御精度の向上のために、伝熱併用式サーモスタットや電動バルブなどを採用しているエンジンもあります。

●サーモスタットの構造と作動原理

古くは、揮発性の高いエーテルを封入し、気化による圧力上昇を利用したベローズ型サーモスタットがありました。現在は、ワックスが温度によって膨張することを利用してバルブを開閉するワックス・ペレット型が主流です。

ワックス・ペレット型サーモスタットの開閉機構は、次の通りです。冷却水が冷えているときは、ペレット内のワックスも固体のままでバルブも閉じています。

・サーモスタット開
冷却水温度が高くなると、固体のワックスが溶けて液体となって膨張します。膨張すると、合成ゴムが圧縮されてスピンドルを押出します。スピンドルはケースと一体で固定されているので、ペレットが動かされケースとペレット間に隙間が発生します。この隙間がバルブ開の状態です。

・サーモスタット閉
冷却水温が低くなると、ワックスが固体となって収縮して合成ゴムが元の状態に戻ります。すると、ペレットがゴムに押されていた状態が解けるので隙間が塞がれて、バルブ閉となります。

サーモスタット
サーモスタットの仕組み

●エンジン水温制御

エンジン水温を制御する方法には、サーモスタットを出口に配置するインライン方式と、入口に配置するボトムバイパス方式があります。コストはかかりますが、最近は制御性に優れたボトムバイパス方式が主流になっています。

・インライン方式
サーモスタットが出口にあるのでエア抜きや取り扱いが容易です。水温が上がってサーモスタットが開いたときに、エンジン側とラジエーター側の水温差が大きく、水温変動が大きくなります。

・ボトムバイパス方式
サーモスタットの開閉がきめ細かくできるので、比較的容易に水温が制御できます。サーモスタットがシリンダーより下に配置されるので、エア抜きバルブが必要です。

冷却系システム
ラジエターシステムにはボトムバイパス方式とインライン方式がある

●水温制御になる暖気促進

サーモスタットは冷却だけでなく、冷態時には水路を切り替えて暖気時間を短縮するように制御します。始動直後はエンジン水温が低いので、水温の上昇を促進するためにラジエーターを通さず、エンジンのウォータージャケット内だけで循環します。

エンジン水温が(80℃前後)規定値以上になると、サーモスタットが開いてラジエーターへの水路を開いて、冷却してエンジンに戻します。サーモスタットの開閉温度は、クルマやエンジンの特性に応じて決定します。

暖気促進のための水路切り替え
暖気促進のための水路切り替え

運転状況や外気条件に応じてエンジン水温を応答良く制御するため、またエンジンの軽量化のために冷却水量は減らす方向で開発されています。

冷却水量が減れば、それだけより高度な温度制御が必要になります。

(Mr.ソラン)

この記事の著者

Mr. ソラン 近影

Mr. ソラン

某自動車メーカーで30年以上、自動車の研究開発に携わってきた経験を持ち、古い技術から最新の技術までをやさしく解説することをモットーに執筆中。もともとはエンジン屋で、失敗や挫折を繰り返しながら、さまざまなエンジンの開発にチャレンジしてきました。
EVや燃料電池の開発が加速する一方で、内燃機関の熱効率はどこまで上げられるのか、まだまだ頑張れるはず、と考えて日々精進しています。夢は、好きな車で、大好きなワンコと一緒に、日本中の世界遺産を見て回ることです。
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