目次
■1台あたり約6kgの軽量化&1万円のコストダウンを実現
●既存の車載センサー情報を用いて減衰力を制御する
10月30日、ビッグニュースが飛び込んできました。日立製作所とホンダが自動車部品メーカー4社を統合することを発表したのです。具体的には、ホンダが傘下のケーヒン、ショーワ、日信工業を完全子会社した後、日立オートモティブシステムズが存続会社として3社を吸収合併。その結果、連結売上収益1.7兆円というグローバルメガサプライヤーが生まれることになります。
ここ最近、自動車業界は「100年に一度の大変革時代」を迎えているとよく言われています。自動運転、コネクテッド、シェアサービス、電動化を表す「CASE」の波が自動車業界を怒涛のように襲っていますが、今回の統合劇はそんな時代の変革の象徴の一つと言えるものです。
その統合会社においても重要な役割を果たすことになるのが、日立オートモティブシステムズです。日立オートモティブシステムズは北海道・十勝にテストコースを所有しているのですが、先日、その東京ドーム10個以上という広大なテストコースにおいて技術試乗会が開催されました。
まず体験したのは、「可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンションシステム」です。
一般的な可変ダンパーには、ストロークセンサーが各輪に1つずつと、バネ上(車体)の挙動を測るための上下Gセンサーが3つ(ロール/ピッチ/ヒーブ)必要となります。今回のシステムでは、そうした可変ダンパー専用のセンサー類を用いることなく、車輪速センサーや前後・横Gセンサーといった通常の車両制御に使われる情報を用いて減衰力を制御します。専用センサーやそれに伴う配線類などが不要になったことで、1輪あたり約30%の省スペース化と約1.4kgの軽量化を実現しました。
●車輪速センサーから車体の上下動を推測
ポイントは車輪速です。サスペンションがストロークした際、ストラットの場合はタイヤが前後に微妙に動きます。その前後速度の変化を車輪速センサーで検出することでストローク量を算出し、そこから車体の上下動を推定するのです。
ちなみに車輪速は加減速でも変化しますし、旋回時には内輪・外輪でも差が出てきます。さらに低μ路になればスリップも発生します。そうした様々な要素を考慮した上で、ストローク分の車輪速変動を検出できるのが、この技術のスゴイところです。
また、今回の新ダンパーは制御バルブが内蔵式になっているのも特徴です。制御バルブが外側にあるトリプルチューブ構造の可変ダンパーに対して、新ダンパーは内蔵式にすることで一般的なダンパーと同様のツインチューブ構造が成立。これも小型軽量化に一役買っています。
さらにこの新ダンパーには、周波数感応機構もついています。車両のフワフワした動き(低周波)を抑えるには減衰力を高くしたいのですが、一方でゴツゴツした細かい振動(高周波)に対しては減衰力を低くしたい、という二律背反した要素があります。この周波数感応機構は、高周波数の路面入力に対して、メカ的に減衰力を下げて乗り心地を良くする役割を担っています。
さて、前置きが長くなりましたが、この新ダンパーはどれほどの実力なのでしょうか。フォルクスワーゲン ・ゴルフをベースにしたテスト車両で実際に乗り心地を体感してみることができました。
●「ボヨヨーン」な乗り心地が「トトトン」に!
コースは、欧州の郊外にある不整路を模した路面と、トラックが多く走る幹線道路のようなうねりのある路面です。
まず、通常のパッシブサスペンション装着車に乗ってみました。80km/hで不正路面を通過すると、路面の凹凸に対して車両が大きく上下して、それが「ボヨヨン」としばらく収まりません。続いて、うねり路を60km/hで走行します。今度はダンパーの減衰力が低すぎるのでしょうか、連続する段差で抑えが効かない感じで、「ドドドド!」と不快な振動が直接身体を襲います。うーん、これはツライ! お昼ご飯を食べる前でよかった、というのが正直な感想です。
では、新ダンパーの装着車に乗り換えてみましょう。すると、先ほどのテスト車とは雲泥の差。新ダンパー装着車はしっかり押さえが効いていて跳ねる量が減っていますし、跳ねた後の収束があっという間で、クルマの接地感が段違いです。どんなに鈍感な人でもその違いに気がつくほど、乗り心地が改善されています。
この「可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンションシステム」は、従来のセンサー付き可変ダンパーと比較すると、1万円くらい安くなるとのこと。実用化の際には、このコストパフォーマンスの高さで採用車種が広がることが期待されます。
●ステレオカメラで路面状況を認識してサスを制御
続いて試乗したのが、「路面プレビューセミアクシステム」です。これはステレオカメラで画像認識した路面情報をもとに、サス制御と統合することで安全性と乗り心地を向上させるというもの。
ステレオカメラは立体視ができて距離の測定精度が高いので、モノカメラよりも詳細な路面形状が測定できます。
また、路面形状と車速によって、路面の入力周波数がわかります。うねり路は周波数が低い状態ですが、車速をどんどん上げていくと周波数がどんどん高くなっていきます。そうした周波数特性を考慮して制御することで、さらに乗り心地の向上が実現できるのです。これをプレビューBLQ制御と呼びます(BLQはBi-Linear-Quadraticの略)。
アメリカの道路では陥没した穴(ポットホール)が結構あるのですが、そこにスピードを落とさずに突っ込んでしまうと、パンクしたりホイールが曲がったりする危険があります。そこで、ステレオカメラでポットホールを認識したら事前に減衰力を高めておくことで、衝撃を緩和させることができます(上下Gを30%低減)。その逆に、低速でバンプ路や突起路を通過する際は減衰力を下げることで、乗り心地を向上させます(上下Gを20%低減)。
「路面プレビューセミアクシステム」で用いるステレオカメラは専用品ではなく既存のものを使うので、ソフトウェアのアップデイトといった最小限のコストアップでこの機能を実現できるのもメリットです。
快適性と安全性に大きく貢献するこの新メカニズム、「可変ダンパー専用センサーが不要な高性能セミアクティブサスペンションシステム」とともに、早期の実用化と普及を期待したいところです。
(長野達郎)