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東京オートサロンは、毎年開催されるチューニングカーやドレスアップカーの祭典です。各パーツメーカーやチューニングショップがそれぞれ趣向を凝らしたクルマを展示する中、トヨタ系ディーラーで異色の出展をしている会社があります。チューニングに対して厳しいイメージのある正規ディーラーのオートサロン出展はどのような意味を持つのか、自身もチューニング好きな元自動車ディーラー営業マンが、解説していきます。
■社外品を扱いたがらないディーラーの本音
新車販売を行う自動車ディーラーでは、専ら純正のアフターパーツの取り扱いが多いです。トヨタであればTRDやモデリスタ、ホンダであればモデューロ、日産ならニスモといった、自動車メーカーとのつながりの強い、自社の傘下にあるパーツメーカーの取り扱いが主立っています。
これらのパーツメーカーは新車販売カタログにも掲載されており、自動車ディーラーでできるカスタマイズと言えば、このカタログに載っているものだけで、社外パーツの取り付けには難色を示すことが多くあります。そこには、一つ一つのパーツの保安基準適合を確認したり、取り付けでの問題が発生した場合に大きな事故につながるため、手間と工数が多くかかり、不採算だから取り扱いたくないという本音があります。
しかしクルマの楽しみに方は人それぞれ違い、チューニング、ドレスアップ、レースなど多岐にわたります。そんな中で、従来の自動車ディーラーが手を付けたがらなかったレース分野に参戦しているのが「埼玉トヨペットグループ」、多様な社外品を使ったドレスアップ分野で力を発揮しているのが「MTG宮城トヨタグループ」です。
●モータースポーツ室を立ち上げる埼玉トヨペット
スーパーGTやスーパー耐久などの、国内市販車ベースのレース活動を行っているのが埼玉トヨペットグループです。埼玉トヨペットグリーンブレイブと名付けられたレーシングチームは、有名レーシングドライバーを起用し、レース界で一大旋風を巻き起こしています。
専門部署のモータースポーツ室を立ち上げ、トヨタ系ディーラーながら、本格的なレース活動とプロモーション活動を行っています。東京オートサロンでは、実際のレースで使用された車両の展示や、レーシングドライバーによるファンサービスを軸に、新たなファンの創造を続けている会社です。
クルマの「走る」という分野にとことんこだわり、走る楽しさを追求する会社のこだわりは、販売現場にも反映されており、カスタマイズの相談がしやすい環境を作っています。
●社外品カスタマイズも続々導入の宮城トヨタ
元々カスタマイズには非常に寛容で、自社で多くのカスタマイズカーを制作していた会社です。オートサロンへの出展は2015年から始まり、毎年注目を浴びるカスタマイズカーを発表しています。
サクシードバンのキャンピング仕様、FJ28ランドクルーザーのレストア、シエンタのリフトアップ仕様など、さながらチューニング専門ショップのような仕上がりのクルマが出展されています。しかも、そのクルマ達に装着されているパーツは、すべて自社で販売取り付けが可能になっており、コンプリートカーとしての販売ではなく、ユーザー一人一人が必要な装備を一つ一つ選べる体制となっています。
販売現場の営業マンもサービスフロントも、チューニングに対する知識は確かなもので、毎年会社を挙げて行われるMTGモーターフェスティバルでは、スポーツランドSUGOの本コースを貸し切り、レーシングドライバーとの同乗体験や、取り扱い車種のサーキット試乗会、多くのチューニングメーカーが軒を連ねるパーツ販売や、カスタマイズカーの展示など、クルマを使って「遊ぶ」方法を多岐にわたって提案し続けるディーラーです。
グループ内には、トヨタ店、ネッツ店の他に、レクサス、フォルクスワーゲン、ダイハツの取り扱いもあり、カスタマイズ専門の部署を作り、ユーザーの希望を叶える、多くの提案を行っています。
社員の保有車両についても、しっかりと保安基準内であればカスタマイズは自由となっており、自分が使ってみて良かったものを、お客様にしっかりと提案ができるという社内風土を作り上げている、全国的にみても非常に稀なディーラーです。
●まとめ
お堅いイメージのある新車販売ディーラーの形は、日々変化しています。車種の減少や、販売店の統合により、販売現場では、より自社色を濃く出していき、他の販売店との差別化を図っていく必要があるのでしょう。その中でも、埼玉トヨペットと宮城トヨタは、本業の手助けをしっかりと行えるカスタマイズ部門を上手に作り上げています。今後はメーカーによるブランド戦略に合わせて、各販売店の独自のブランド戦略も、クルマ業界で生き残っていく重要な考え方になっていくでしょう。
(文:佐々木 亘)