目次
■12Vの電圧を数万ボルトまで昇圧する
●1990年頃からトランジスタ式に置き換わる
ガソリンエンジンでは、シリンダー内の混合気を効率良く燃焼させるために、適切なタイミングで点火プラグに強い火花を飛ばす必要があります。
火花点火システムの原理や仕組みを理解するために、まず現行の電子制御点火システムの一世代前の「点火コイルと接点式ディストリビューター」方式について、解説していきます。
●火花点火の役割とは
ピストンによって圧縮された高温の混合気は、点火プラグの火花で着火され、火炎となって燃焼室全域に広がります。燃焼によってシリンダー内の圧力は上昇しますが、燃焼圧力のピークが上死点後クランク角で10°程度の場合に最も燃焼効率が高くなります。
このときの点火時期はMBT (Minimum Spark Advance for Best Torque)と呼ばれ、運転条件によって変化しますが、通常は極力MBTになるように点火時期を設定します。これをベースに、エンジン水温や吸入空気温度、EGR量などを考慮した補正を加えて、点火時期が決定されます。
●点火コイルのよる高電圧の発生メカニズム
点火プラグの火花は、絶縁破壊の放電現象です。火花を飛ばすためには、点火プラグの電極間に数万Vの高電圧を印加する必要があり、この高電圧を発生させるのが点火コイルの役目です。
バッテリの電源電圧12Vを数万Vまで昇圧するため、コイルの自己誘導作用と相互誘導作用を利用します。
・自己誘導作用
鉄芯にコイルを巻いた状態で電源回路のスイッチをONにすると、コイルに電流が流れて鉄芯に一定の磁界が発生します。この状態からスイッチをOFFにすると、磁界を維持しようとして瞬間的に高い電圧が発生して電流が流れます。これが自己誘導作用で、バッテリの12Vは300V程度まで昇圧します。
・相互誘導作用
この300Vをさらに昇圧するのが相互誘導作用です。同じ鉄芯に2次コイルを巻きます。同様に、1次コイルの電流を流した状態からスイッチをOFFにします。すると自己誘導作用と同じように、2次コイルにもコイルの巻き数に比例した高電圧が誘起されます。一般に1次コイルと2次コイルの巻き数比は100倍ぐらいですから、2次コイルには瞬間的に3万Vぐらいの起電力が発生します。
●接点式ディストリビューターの働き
ディストリビューターの役目は、2次コイル側に高電圧を発生するための1次コイル電流の遮断と、発生した高電圧を各気筒の点火プラグに分配することです。
ディストリビューターのローター軸先端にはスパイラルギヤが付いており、エンジンのカムシャフトのギヤと噛み合って連動します。ローターに気筒数のカム山が設けられ、上死点付近でカム山に乗り上げてポイントが開きます。このタイミングで、高電圧が発生して点火プラグに火花が飛ぶ仕組みです。
ウェイトの遠心力を利用したガバナー方式では回転数に応じて、吸気管負圧を利用したバキューム方式では負荷に応じて、点火の進角特性を制御します。
この接点方式では、精度良く点火時期が制御できず、またディストリビューターの駆動損失やポイントの摩耗などの課題がありました。課題解決のため、1990年頃からトランジスターのスイッチング機能を使ったセミトランジスター式やフルトランジスター式へと徐々に置き換わりました。
かつては、「良い混合気」、「良い圧縮」、「良い点火」が、燃焼の三要素でした。エンジンが不調になったら、まずこの3つを疑うことが鉄則でした。当時は、燃料噴射装置はキャブレター、点火装置は接点式ディストリビューターと、ほとんどが機械式のシステムでした。
電子制御化が進みクルマも大きく進歩しましたが、メカニカルな動きや現象が目に見えにくくなってきて、面白みがなくなっているように思います。
(Mr.ソラン)