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■三菱が先駆け、トヨタと日産が追従した
●カーボン堆積と排ガス規制が普及の壁に
1996年、三菱自動車がGDI(筒内噴射)エンジンを市場投入しました。燃費に優れたリーンバーンを採用した当時としては画期的な直噴エンジンでした。すぐにトヨタと日産も追従しましたが、いずれも10年足らずで市場から撤退しました。
注目された筒内噴射リーンバーンエンジンがなぜ市場から消えたのか、解説していきます。
●リーンバーンの何が良い?
通常ガソリンエンジンでは、部分負荷時は理論空燃比で運転しまです。理論空燃比は、燃料と空気(酸素)が過不足なく燃焼する吸入空気と燃料の重量比で、14.7です。
理論空燃比に制御すると、三元触媒を使って排出ガス中の規制物質CO、HC、NOxを同時に低減できるからです。
リーンバーンとは、空燃比が理論空燃比14.7よりも大きい、すなわち燃料が少ない(薄い)混合気の希薄燃焼です。実際には、空燃比が約20以上の燃焼をリーンバーンと呼びます。リーンバーンが実現できれば、少ない燃料で走行できるため燃費は向上します。
●リーンバーンを実現するには
三菱のGDIやトヨタのD-4(Direct Injection 4-stroke)エンジンのリーンバーンは、成層燃焼によってリーンバーンを実現しました。
成層燃焼は、圧縮行程後半に燃料を噴射し筒内全体としては希薄混合気でありながら、点火プラグ付近に着火可能な濃い混合気を集めて、安定した希薄燃焼(リーンバーン)を実現する手法です。
成層燃焼によってリーンバーンを実用化する手法としては、以下の2つのコンセプトがあります。
・三菱やトヨタが採用したピストンのキャビティを利用して濃い混合気を点火プラグ近傍に集めるウォールガイド方式
・メルセデス・ベンツやBMWが採用している噴霧自身の貫徹力を利用して混合気を層状化するスプレーガイド方式
いずれも点火プラグ近傍に濃い混合気を集めて、着火を安定させることがポイントです。
●成層リーンバーンエンジンの問題点
当時(2000年以前)は、三菱やトヨタのように成層燃焼によってリーンバーンを実現していました。しかし、成層燃焼には以下に挙げる課題があり、それを完全に解決することはできませんでした。
・カーボンデポジット(堆積)
成層燃焼は、局所(プラグ付近)では濃い混合気の燃焼になるので、煤(カーボン)が発生します。特に、燃焼室からの吹き戻しによって煤が吸気弁背面や吸気ポートに堆積します。これが、吸気量や吸気の流れに悪影響を与えて、燃焼が不安定になります。
・燃料希釈によるエンジンオイルの増量
負荷の高い領域では、燃料噴霧はライナーに直接衝突するため、燃料がエンジンオイルに混入してオイル希釈が起こります。特に、油温が低く燃料が蒸発しにくい条件では顕著になり、オイルの潤滑性低下やオイル量増大を招きます。
・排出ガス規制対応の難しさ
リーンバーンエンジンでは、三元触媒が使えず、NOx還元触媒が必要です。当時のNOx吸蔵触媒は、浄化効率が低いため、次期排出ガス規制への適合が困難でした。
当時は、カーボンデポジットによる信頼性の低さと排出ガス規制への適合性の困難さが、筒内噴射リーンバーンエンジンの普及に大きな障害となりました。
現在もリーンバーンエンジンは、燃費向上の有望な技術のひとつです。
多くのメーカーは、リーンバーンを成層燃焼でなく、NOxをほとんど排出しないHCCI(予混合圧縮着火)のような均一予混合の燃焼で実現することを目指しています。マツダがマツダ3に搭載したSKYACTIV-Xというエンジンは、その嚆矢でしょう。
(Mr.ソラン)