「じゃじゃ馬」V6ツインターボvs「優等生」ハイブリッド、スカイラインらしさはどちらにあったか?【新型スカイライン試乗】

●どちらにも独特の魅力が詰まっている、ハイブリッドとV6ターボ

改良型スカイラインのハイブリッドとV6ターボ、どちらにも最新のDAS(ダイレクトアダプティブステアリング)が標準装備されています。どちらも、強靭なボディ剛性やサスペンション、吟味されたタイヤをもち、数少ない国産スポーティセダンとして仕上がっています。

しかし、この2台には約110kgの重量差があり、この重量差が、ふたつのクルマの味付けを大きく変えています。日産でハンドリング性能のエンジニアをしていた筆者が気づいた、改良型スカイラインのハイブリッドとV6ターボの違いとは?

※「手放し運転」を可能にするプロパイロット2.0はハイブリッドのみの設定です。V6ターボとは性能比較ができません。プロパイロット2.0に関しては次の記事にてレポートいたします。

良い点①無振動で滑らか、しかも手ごたえもあり、すっきりとした極上のステアリングフィール

DASは大きく進化した。すっきりとしていてダイレクトな操舵感へと進化した。

DAS(ダイレクトアダプティブステアリング)による切れ味や安定感は、ハンドリング性能エンジニアだった筆者もかつての先輩・同僚たちに拍手を送りたくなるほど、素晴らしい仕上がりだと思います。

鼻先が軽く動き、DASの操舵感も相まって、気持ちよいコーナリングを味わえる。

わずかなステアリングの操舵角で大から小までのコーナーをすいすいと駆け抜け、高速走行でも怒涛の直進性を誇り、それでいながらキックバックや不快なステアリング振動がない。とはいえ手応えもしっかりとあり、補舵力は軽く疲れにくい。これだけの仕上がりは、筆者が日産開発時代に味わったことがないくらい、優秀な出来映えだと思います。

ハイブリッドのDASも、ダイレクトではあるが、クルマの重たさを感じる。

ハイブリッドは、ボディの重さもありクルマのノーズが重たい印象があります。スポーツモードを選んでも、素早いハンドル操作にはクルマが追従せず、終始穏やかなヨー挙動となる様にセッティングされているように感じます。

ハイブリッドの場合、DASの操舵感は良いのだが、クルマが重たく感じる。重厚な印象となるようなセッティングに感じた。

対するV6ターボですが、V6ツインターボエンジンとDAS、この組み合わせこそが今回のDASの真骨頂と感じました。ハイブリッドと比べて、クルマの鼻先が軽やかに動くのですが、ハンドル操舵後はノーズの動きがピタッと止まり、修正操舵が不要です。

V6ターボの鼻先の軽さは1コーナーを抜ければ明確にわかる。

ステアバイワイヤの制御で、タイヤを切る量をただ倍増させても、このフィーリングは出てきません。車両諸元(車両重量とヨー慣性)のアドバンテージは、ただハンドルを握っているだけでも良さが伝わるほど、確実にクルマの運動性能を良くしてくれます。このスカイラインV6ターボは、その身の軽さとDASの制御が相まって「極上」ともいえるハンドリングをもたらしてくれています。

良い点②キャラクタの違うパワートレイン、どちらも「静かで速い!」

V6ターボよりも110kg重たいのは、ハンドリングにやはり影響している。

今回のマイナーチェンジの前から、スカイラインハイブリッドは回転の滑らかさと加速の力強さで、評判が高いパワートレインでした。今回、改めて乗ってもその良い印象は変わりません。「静かで速い」理想像を実現したようなパワートレインです。(ただし欠点もあります。以下の「気になること①」で説明)。

元々あったダイムラー製の2.0リットルガソリンターボが今回廃止されました。燃費やパフォーマンスは優秀だったのでしょうが、なんとなくガサツな回転フィールは、好き嫌いが分かれるものでした。代わりに登場したのがこのV6ターボエンジン。こちらも、ハイブリッドと同様、「静かで速い」のです。むしろ、ハイブリッドのようにエンジンのオンオフが無いために、エンジンの回転を感じながら運転することができ、とても心地が良いのです。

マイナーチェンジ前のダイムラー製2.0リットルターボのフィーリングはお世辞にも良いとは言えなかった。

古い感覚なのかもしれませんが、アクセルを踏んで、V6ターボエンジンの「クォーン」というサウンドが高鳴り、クルマが加速していく流れが、滑らかで、どこか懐かしさを感じさせてくれます。最近あまりない、心地よいエンジンでした。

気になる点①ステアリングアシストがNG!意に反してハンドルが左右に振れる

他の日産車と異なり、ステアリングは真円タイプ。

プロパイロット2.0での「手放し運転」は、すべての高速道路で使用できるわけではありません。日産の開発センターに近いはずの小田原厚木道路(下り方面)では、一度もプロパイロット2.0に入らずがっかりするなど、まだまだ進化途中であることは理解しないとなりません。高精度地図データが整っている高速道路上でないとこの機能はONにはならない点は引き続き頑張ってほしい所ではありますが、筆者が指摘したい箇所はその点ではありません。

プロパイロット1.0相当となる区間でのステアリング制御のまずさです。

プロパイロットは、例えば高速道路上のコーナーで、ステアリングを旋回方向とは逆に切る反力が働く瞬間があり、とても不快に感じます。プロパイロットの、コーナーでのLKAの所作は改善が必要に感じます。

※本記事に続く「プロパイロットの良い所、気になる所」記事にてレポートをしていますので、そちらもご覧ください。

気になる点②さすがに目をつぶれない悪燃費

V6ターボの排気口には、ドットが付いており、リアのアクセントとなっている。

ハイブリッドの燃費は14.4km/L(JC08モード)、V6ターボは10.0km/L(WLTCモード)です。

参考に、現在国内で新車購入できる欧州Dセグメントのカタログ燃費を以下に挙げました(※排気量が大きなモデルを選定)。ここから言えることは、AMGを除いてDセグメントで3リットル級のエンジンは既に国内では販売していない点、そしてスカイラインはハイブリッドでさえ、燃費で負けているのです。

メルセデスベンツ C43 AMG(3.0リッターガソリンターボ)  9.7km/L(JC08モード)
メルセデスベンツ C200(2.0リッターガソリンターボ) 12.9km/L(WLTCモード)
BMW 330i(2.0リットルターボ)   13.2km/L(WLTCモード)
Audi A4 45TFSI(2.0リットルターボ)   15.5km/L(JC08モード)
※JC08モードとWLTCモードが混在している点はご容赦いただきたい。

3リットル級のエンジンと2リットルを比べて燃費が悪いのは当然分かっています。しかし、ライバルはみなダウンサイジング化をして、パフォーマンスと燃費の両立を必死に行っています。

気になる点③最小回転半径5.6mはさすがに大きい

ダンロップ製19インチタイヤ。

駐車場や交差点など、スピードをそれほど出さないシーンで弱点が現れます。小回りをするために、ステアリングを奥まで切り込むと、タイヤの切れ角が足りずに、思うほどクルマが曲がりません。最小回転半径5.6m(※4WDは5.7m)は、数値以上に不便さを感じてしまいます。参考に、欧州3メーカーの最小回転半径を挙げてみました。このクラスでの0.1mは大きな差です。

メルセデスベンツ C200 5.2m
トヨタクラウン 5.2m
BMW320i 5.3m
Audi A4 5.5m
日産スカイライン 5.6m
※主要メーカー2WDセダンの最小回転半径(カタログ値)

回転半径を小さくするには「タイヤの軌跡を緻密に解析し、サスペンションと干渉しないよう、ミリミリと削っていく」というサスペンション設計の努力が必要です。

ただ、こうなってしまった背景には、サス設計にはどうしようもない「他社車よりも大径のタイヤをはき、他社車よりも大きなエンジンを搭載するため、タイヤの切れ角が取れない」という裏実情があるのを筆者は承知しています。とはいえ、スカイライン担当の商品企画の皆さんはこの数値を見て、どう考えているのでしょうか。

まとめ

改良型スカイラインのハイブリッド、V6ターボ、どちらにも魅力が詰まっています。先進の運転支援技術で快適なロングドライブを味わいたい方にはハイブリッドがおすすめです。ちょっと懐かしい極上のエンジンフィーリングを味わいたい方には、V6ターボをお薦めします。

また、V6ターボの上に位置する「400R」には、ニッサンのエンジニア達が込めた強烈な味が潜んでいるはずですので、また追ってレポートしたいと思います。

(文:吉川賢一/写真:鈴木祐子)

●主要諸元

SKYLINE GT type SP[HYBRID] 2WD(インペリアルアンバー)
■全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm
■ホイールベース:2850mm
■車両重量:1840kg
■駆動方式:後輪駆動
■エンジン:3.5リットルV型6気筒ガソリンエンジン+モーター(VQ35HR-HM34)
■排気量:3,498cc
■最高出力:225kW(306ps)/6800rpm
■最大トルク:350Nm(35.7kgm)/5000rpm
■モーター HM34
■最高出力:50kW(68ps)
■最大トルク:290Nm(29.6kgm)
■サスペンション前後:前/独立懸架ダブルウィッシュボーン式
後/独立懸架マルチリンク式
■タイヤ前後:前/ 245/40RF19・後/ 245/40RF19
■JC08モード燃費:14.4km/L
■最小回転半径:5.6m
■燃料・タンク容量:無鉛プレミアムガソリン・70L
■価格:SKYLINE GT type SP[HYBRID] 2WD 653万3682円
(車両本体616万0000円 +付属品合計37万3682円)

<V6ターボ>
SKYLINE GT type P[V6 TURBO] 2WD(オーロラフレアブルーパール)
■全長×全幅×全高:4810×1820×1440mm
■ホイールベース:2850mm
■車両重量:1710kg
■駆動方式:後輪駆動
■エンジン:3.0リットルV型6気筒ガソリンターボエンジン(VR30DDTT)
■排気量:2,997cc
■最高出力:224kW(304ps)/6400rpm
■最大トルク:400Nm(40.8kgm)/1600-5200rpm
■サスペンション前後:前/独立懸架ダブルウィッシュボーン式
後/独立懸架マルチリンク式
■タイヤ前後:前/ 225/50RF18・後/ 225/50RF18
■WLTCモード燃費:10.0km/L
■最小回転半径:5.6m
■燃料・タンク容量:無鉛プレミアムガソリン・80L
■価格:SKYLINE GT type P[V6 TURBO] 2WD 523万2382円
(車両本体463万8700円 +付属品合計59万3682円)

この記事の著者

Kenichi.Yoshikawa 近影

Kenichi.Yoshikawa

日産自動車にて11年間、操縦安定性-乗り心地の性能開発を担当。スカイラインやフーガ等のFR高級車の開発に従事。車の「本音と建前」を情報発信し、「自動車業界へ貢献していきたい」と考え、2016年に独立を決意。
現在は、車に関する「面白くて興味深い」記事作成や、「エンジニア視点での本音の車評価」の動画作成もこなしながら、モータージャーナリストへのキャリアを目指している。
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